法政大学大学院(水曜4時限)

清岡卓行「鯨もいる秋の空」

清岡の詩はともかくも、「アカシアの大連」でデビューした時には小説は読むに耐えないものと決め付けたものだ。 学部生だった当時は『文藝春秋』で芥川賞受賞作品を読んでいたものだけれど、選評で三島由紀夫までが褒めていたのに違和感を抱いたのを覚えてい…

川端康成「禽獣」論  新城郁夫

「禽獣」は正真正銘の傑作だと思うけど、素晴らしい論文もいくつかある。 先般の授業で「禽獣」を取り上げた時には見つからずに読めなかったのだけれど、数日前に別の本を探していたら発見したのでサーッと目を通したら、やはりスゴイ。 『立教日本文学』第…

田村俊子「秋海棠」  清岡卓行の作品

中国の田村俊子研究といえば李蓮姫さんがいて、以前学芸大にも研究留学に来ていた時に俊子作品を一緒に読む機会を得たけど、今回の発表であるマー(馬)さんも李さんの存在は知っているとのこと。 田村俊子研究は日本より中国の方が盛んなのかな? マーさん…

川端康成「禽獣」  主人公  田村俊子「秋海棠」

太宰研究が主眼だというハンさんがなぜか「禽獣」をやりたいというので(その意欲や良し!)、木島クンが乗って一緒に発表。 難しいテクストだし読みきれないほど多量の先行論があることを断っておいたけれど、案の定2人とも苦労したのが露わとなった。 ハ…

安部公房「公然の秘密」  川端康成「禽獣」

遅ればせながら9日の授業の記録。 第1回の授業でグッチ君が大幅に遅刻した時に、レジュメ作りで完璧を目指すのはイイけれど、完璧はありえないので自分にフン切りを付けて早目に切り上げ、授業に遅れないようにと伝えたばかりなのに、タイメイ君がグッチ君…

龍胆寺雄「L・盆地の汽車」

なにが面白いのだからサッパリ分からない作品に注目した杉本クンのセンスは貴重なものだけれど、テクストの読みには苦労したものと見えてレジュメは語釈中心となった。 むしろ留学生の丁さんが意外なことに自分なりの読みを提起できていて、昨年度の丁さんの…

埴谷雄高「闇のなかの黒い馬」  龍胆寺雄「L・盆地の汽車」

急遽レポーターの1人に指名された鄭双君がキチンと発表できたのはリッパ。 日本人にも理解困難なテクストを、留学生が取り組むこと自体に無理があるところを、埴谷の名を知っていただけの程度で指名されてしまったのだから、タイヘンなこと。 発表内容はと…

おヒマならいらっしゃい!  埴谷雄高「闇の中の黒い馬」

昨年どおり、水曜午後3時(去年より10分早く)に始まって出入り自由、意見が出尽くしたら終りというのは変わらない。 来週・18日は埴谷雄高「闇の中の黒い馬」で、レポは関口クンだから難解なテクストを分かりやすく読み解いてくれるはず。 個人的な趣…

松本清張「影の車」  三好行雄批判!

清張ファンだという留学生が「鉢植えを買う女」という作品について発表するというので、文庫を探したり全集を検索したけれど見つからない。 困って推理小説に詳しいクリマン(栗田卓)君に尋ねたら、当該作品のPDFを送ってくれたのでホントに助かった。 …

安部公房  三島由紀夫  徳田秋声

申し訳ないながら、気になりつつもずっと後回しになってしまった授業の記録メモ。 ・12月3日 安倍公房「鉛の卵」レポは関内クン 公房には無知なボクには、いろいろ教えてもらった。 初期〜中期という時期区分も知らなかったけど、この期を特徴付ける諸要…

古山高麗雄「プレオー8の夜明け」

発表の中身が盛りだくさんなので、先週に続いて(ボクのゼミでは珍しい)同じ作品の2週連続だった。 発表者の体調が良くないというので少々補足をしてもらってすぐに質疑応答に入り、いくつか発表者の勘違い(?)が修正された程度だが、やりとりをしている…

古山高麗雄  「壇蜜BAR オトナの密会#1」

芥川賞作家ながら知られていない作家の受賞作「プレオー8の夜明け」。 1970年受賞当時読んだのだけれど、捕虜生活を安岡章太郎風なユーモアで描いた作品という程度の記憶しかなかった。 再読の印象はこんなに面白い作品だったのか、という再発見ができ…

徳田秋声  古山高麗雄

パソコンの不具合で授業の感想が遅れてしまったけど、15日は徳田秋声「或売笑婦の話」だった。 リーチ君専門の秋声だったので、意欲的なところが議論を呼んで盛り上がった。 売笑婦の話がいきなり語られるのではなく、最初に売笑婦の話を聞いた男を登場さ…

山田風太郎  松本清張  一人称の語り=騙り  自己閉塞  《物語化》  ポシビリティ(可能性)とプロバビリティ(蓋然性)

山田風太郎の「不戦者日記」に止まらずに未刊行の日記も含めて、三国連太郎が朗読するという番組(BSプレミアム)の再放送を聞きながら記している。 前にも聞いたけど、とてもイイ日記であり、朗読も素晴らしいので2度目でも飽きない。 風太郎の小説は昔…

漱石の話法(語り)について  次週は松本清張

1日はボクが漱石テクストの話法(語り手)について講義したのはいいけど、30分も超過してしまったのは盛りだくさん過ぎたせいか。 前期で退学したサイ君と学大の私設院生(?)のナオさんも参加してくれたので、欠席したカンナイ君の穴埋めができた。 サ…

三島由紀夫「鍵のかかる部屋」  アポロン的とディオニソス的  芥川龍之介  行動主義  ジュネット

また授業の感想を記し忘れてしまったので、遅まきながら。 少人数でレポーターを回しているので手が回らなくなっているのでカワイソーなくらい。 ジックリ検討する余裕が無いので結論なしのレジュメとなったので、こちらから補足的に話を展開した。 レジュメ…

安倍公房「手」

この欄、すでに記したとばかり思っていたら、まだだった(トシのせいか、考えたことは既に表したことだと勘違いしている自分がいてコワい)。 授業のテンションが下がってきたせいか、参加者が少なかったのは淋しい限り。 それでも留学生ながらリュー君のガ…

村上春樹「午後の最後の芝生」  松波太郎

授業に集中できない留学生を含めても前期の半分以下の受講生が5名になった中で、留学生のリュー君が1人で(前期は日本人院生と2人だった)ガンバッタのは評価できる。 作品の選択にはセンスを示したものの、まだテクストの読みが不徹底で先行研究から自身…

安部公房「繭」  来週は村上春樹「午後の最後の芝生」

在職中は立教大や聖心女子大でも他大学の院生を受け入れて双方に刺激し合ってもらっていたけれど、法政大では残念ながら今まで外部からの参加者がいなかった。 昨日は教科書にも採られている作品だったせいもあって、桐原書店の浜田編集長に声をかけたら参加…

次回は安部公房「赤い繭」

徳田秋声「絶縁」の発表はジュネットの焦点化という概念が、秋声のテクスト分析にどこまで有効に機能するかを試みたという面が強かった。 なかなかハマらない分析だったけれど、慣れない作業なので仕方ないが、こうした試行錯誤の積み重ねを通して理論を有効…

三島由紀夫「剣」

「金無垢」の三島ファンであるマキさんの発表だけに、主人公・国分次郎の死を中心に論じるとしながらも《必然として死なねばならなかった》として、潔癖にその理由を問うことを禁じた姿勢はリッパ。 ボクなりの言い方をすれば、漱石「虞美人草」の藤尾と同様…

20日は三島由紀夫

20日は三島由紀夫「剣」です。実に面白い問題作で、論点がたくさんあります。 後期から(あるいは三島の20日のみ)参加する人は(誰でも歓迎)、教室その他を教えますから関谷まで連絡下さい。テキストは配布してありますが、文庫は講談社文芸文庫『中世…

徳田秋声「足袋の底」  ジュネットの「焦点化」  表題の意味

リーチ君がけっこう刺激的な発表をしてくれたので、とても面白かった。 秋声についてはほぼシロウトなので、秋声テクストは「倒叙法」の形が多いという指摘には教えられた。 過去時制と現在時における出来事が往還するということは分かったが、それがどうい…

村上春樹の短篇

『中国行きのスロウ・ボート』中の「土の中の彼女の小さな犬」という論じにくい作品にチャレンジした留学生の意欲は大したもの。 結果はザンネンだったものの、まずはハルキのテクストを読む姿勢を正す機会にはなったと思う。 もっともそれは留学生に限らず…

津島佑子「黙市」  小森陽一  千石英世『異性文学論』

演習で取り上げるというので、改めてジックリ読んでみたら川端康成賞(年間の最良短篇に授賞)に価する充実した質量の作品だった。 津島佑子を、そして「黙市」について発表するという留学生がどこまで分かった上で作家・作品を選んでいるかは不明ながら、結…

太宰治「竹青」

豊田真由美のあまりのオモシロさに浸っているうちに(?)授業の感想を記すのを忘れてしまった(24日の学大の学会の準備もあったけど)。 チンさんの発表は中国人留学生らしいもので、原典の「聊斎志異」との比較を通じて太宰作品の特色をあぶり出そうとし…

吉田修一(その2)  志賀直哉  次男坊の文学

志賀直哉で修論を書こうと考えている留学生が、巴金と志賀とを「次男坊の文学」として括りながら論じると言うので、志賀を次男坊として位置づけるのは無理だという私見を伝えた。 彼女が参照した、志賀文学を次男坊と理解する先行論を読んでみたけれど、やは…

吉田修一  ハルキとの差異  又吉直樹の小説

授業の感想を書く前に、メル友の大先輩(文学専門ではない)から吉田やハルキなど最近の作家に関するメールを頂戴したので、その返信をそのまま載せて授業の感想代りとしたいと思います。 (○○はお名前を伏せたものです)吉田を選んだ留学生の発表によれば、…

「小僧の神様」  吉田修一

野口武彦と関谷一郎の優れた論が先行するので、この作品で何か言おうとするのは困難だろうと心配したとおりの結果となった。 留学生が先行研究をよく集めていて、その中から三好行雄師のものを引用していたのはチョッと驚き。 学燈社だったか大きな文学アル…

野間宏

実に久しぶりに野間宏、それも「顔の中の赤い月」を読み返した(それにしても「真空地帯」とはエライ違い)。 予想以上に読みにくかったので、改めてショーモナイ作家・作品だと叫びたくなったものの、ガマンしているうちに読めるようになった。 文学史的に…