高田知波  『姓と性』  山梨文学賞受賞  安藤宏

一昨日、群像新人賞について記したら、もう一つの文学賞受賞を思い出したので・・・
山梨文学賞といっても、知っている人はあまりいないだろうけど。
その名のとおり山梨県立文学館で出している賞だけれど、日本全国の小説と評論・研究の作品それぞれが授賞対象(授賞と受賞の違いに留意!)。
これまでに内田道雄先生や林淑美などの研究書が受賞しているが、かつては時おり文学館の関係者の好みと利害が前面に出た選択がなされ、聞いたこともない研究書が選ばれて首を傾げる授賞の仕方もあった(小説の方は興味がないので不明)。
選考委員が換ってからは納得できる授賞の仕方になった印象だが、今回(22回)は前回の安藤宏に続いて説得的な授賞だと思いながら個人的にも喜んでいる。
個人的にというのは、お2人ともに極めて懇意な仲だからであるが、個人的に「も」というのは授賞が公平になってきたと感じるからである。
第6回の内田氏や10回の兵藤裕己を除くとキレイに東大関係者が排除されているのが瞭然としていた。
東大出身や東大勤務の連中が出した本が常時水準が低いという印象でもないので、納得できない思いを抱き続けていたのがホンネ(広がりのない賞だからどうでもイイようなものの)。
事実、高田さんの前著『樋口一葉の射程』にしても『〈名作〉の壁を超えて――「舞姫」から「人間失格」』にしても、その年次に受賞したものに引けを取らないレベルだったはず。
そもそも高田さんは先輩研究者の中でも飛びぬけて優れた人だと思っているが(院生の頃に授業が一緒だったこともあり、直接そのインパクトを受けたせいもあるかも)、どの著書にも〈調べる〉こととテクストを〈読む〉ことが共に独自かつ高水準のレベルで発揮されている。
今回の受賞作『姓と性ーー近代文学における名前とジェンダー』(翰林書房)はその名のとおり、誰もここまで注目しなかた「姓」と流行の(?)の「性」(ジェンダー)と絡めて漱石その他大勢を料理して魅せてくれている。(と、ここまで記してから3日ほど経ってしまった。)
安藤クンはこれも後輩の中でも際立った研究者で、単著が無いので目立っていないかもしれない勝原晴希や杉本優等と共に「畏るべき後生」の一人である。
彼の前著『自意識の昭和文学』(至文堂)も学界で評判になり高く評価され、今時の学生にも読まれているくらいだけれど、当時の山梨文学賞は無視している。
授賞する側はケチな主観を排して、一貫した評価軸を貫かなければならないのは当然、それができなければ賞それ自体を廃止すべきだろう。