大川武司  『村上春樹と1980年代』  『学芸 国語国文学』記念号

桐原の教科書編集の仕事を主に生活していたので、預かった修論(一橋大)の一部・私設研究生の「卒論」(レポート)・学大院生のレジュメ3種をチェックする余裕が無かったので、ボチボチ読んでいるところ。
前から『学芸 国語国文学』の退職記念号に寄せてもらった論文を読むのを楽しみにしていたけれど、皆さん論じている作品が新しすぎたりで未読の(自家には無い)テクストが多くて、まずはその作品をゲットしなければならないと思っていた。
大体は文庫本で揃ったものの、大川武司クンが論じている水上勉「兵卒の鬣(たてがみ)」のテクストは入手できないものと諦めていたのが、昨日国立のブックセンター伊藤にあったのでビックリ。
新日本出版社(学生時代には敵視していた日本共産党系の出版社)から「日本の戦争」という表題の作品集が出ていて、それが古書店に並んでいたのはラッキーだった(価格は3ぶんの1)。
読み始めたばかりでかつ結構長い作品なので、論文の方まで行くには時間がかかりそう。
実は水上テクストは入手しがたいと思い、大川クンの別の論文を読んで感心したのが10日ほど前のこと。
新しいモノについて教えてもらっている元同僚の千田洋幸氏(この間もAKBがなぜ好評なのかを説明してもらったばかり)達が編集しているハルキの論文集を2冊とも頂戴しながら、両方とも読む余裕がないまま今日に至ってしまった(と思ったら、カヨちゃんのは読んだ形跡が残っていた)。
(そういえば千田氏の近著をブログで推薦・紹介しようと思いながら果たせぬまま数カ月経ってしまった。)
大川クンを契機に1冊目の『村上春樹と1980年代』(おうふう)に収録されている彼の「『遠く』をめぐって」という表題の論を読んでとても刺激された。
論じられているのは「スロウ・ボート」と「午後の芝生」(共に略称)の2作なのだが、昭和ゼミの発や宇都宮大卒業生の論文を含めて優れた先行研究の多い2作ながら、両作品を「遠く」という観点から括るという新鮮な切り口で面白かった。
少々強引さも感じるので完全に納得できたわけではないが、宮沢賢治修論を審査した際に感じたセンスの良さが北大で一層磨かれた手ごたえが伝わってきて、ワクワクしながら読めた。
この論文集にも名を連ねている山田夏樹クンの博士論文(立教大)を審査した時と同じような、新世代の研究者の思いも及ばぬ見地からテクストを分析する手際には圧倒されるばかり。
このハルキ論文集(2冊目は『村上春樹と1990年代』)には、もう一人の編者である宇佐美毅氏を始め大井田義彰(元同僚)・野中潤らの2世代の優れものと、前回ヒグラシゼミで発表してもらったばかりの矢野利裕クンや荒井裕樹など新世代の優秀な書き手が揃っているので、ハルキファン必携のシリーズであることを強調しておきたい。
ハルキのテクストを楽しんだら、次はこの論集で他のオモシロ読みを楽しむべし! 後悔はしない。