高橋新太郎セレクション(笠間書院)

いろいろ記しておきたいながら果たせないことが多いけれど、その一つにこの著作集がある。
シンタローさん(一時期同僚だった高橋博史と差異化する意味もあってそう呼ばせてもらっていた)ほど紳士的な研究者はいない、というイメージなのだが、おそらく皆さんの共通した人物像だと思う。
当初からそういう印象だったので、シンタローさんの勤務先である学習院短期大学で急にテニスをすることになった時に、お留守だったシンタローさんの靴を無断でお借りしたことがあったほど。
その時も副手の女性が「シンタロー先生の靴をお借りすればいいですヨ」と言って研究室から持ってきてくれたくらいだから、職場でもよほど親しまれ愛されていたのだろう。
シンタローさんのテニス自慢は、まだ一般化されてなかった両手打ちをオリジナルなものとして着想したことだった。
クリス・エバートを始め女子プレーヤーが概ね両手打ちだったけれど、シンタローさんはいつも「私の方が先だ」と言い張っていた。
お互いテニスの腕は大したことなかったけれど、そのあとの呑む方でも大人しく話したものだった。
呑む時も紳士的な感じでマジメな話をしてくれたものだが、研究実績業績を知った時はイメージを超えていたので驚いたものだ。
その意外ぶりは、推薦文を書いている紅野謙介さんの《目論むところはひとすじ、政治にふりまわされる文学者たちの軌跡である》という名言に尽くされている。
分売可能の全巻構成は
1、近代日本文学の周圏 4200円
2、雑誌探索ノートーー戦中・戦後誌からの検証 2800円
3、集書日誌・詩誌「リアン」のこと 3000円
 これだけ充実した業績が埋もれずに書籍の形に残るのは、古代から近代の文学研究を支えてきた笠間書院ならではのファイン・プレーである。
それも入手しやすい価格を付けるのだから、呆れるほど良心的な出版社というほかない。
これが勉誠出版なら、また阿漕(あこぎ)な値段を付けて利に奔ったところだろう(以前、細谷博さんの書評をした際にも指摘した通り)。
 紅野謙介さん以外にも、安藤宏十重田裕一というレッキとした研究者たち(シンタローさんと同時代の文学研究の専門家たち)も責任を持って推薦文を寄せていることからも、この著作集の貴重さは伝わるであろう。
「高橋新太郎セレクション」を揃えてない図書館はインチキだ、と今から断言しておく。