斎藤理生  小林秀雄の新資料

山城むつみ氏の小林秀雄論についての感想を記したばかりだが、24日の朝日新聞の「文化・文芸」欄に小林秀雄が取り上げられていた(記事執筆は編集委員市田隆)。
安倍政権の危険な動きに抗して、戦争中の小林を好意的に再評価しようとしている意図は明らかに伝わってくるのだけれど、その方向を拡大し過ぎると別の小林秀雄にズレていく危惧を感じる。
戦争直後には小林秀雄という偶像を破壊する動きも激しく、記事にも紹介されているように「文学における戦争責任者」にも挙げられていた。
1947年のエッセイ「政治家」というのが発見されたというのは驚きながら、見つけた斎藤理生(まさお)氏も「68年前の小林の危惧は古くなっていない」と話しているとのこと。
確かに古くはなっていないけれど、新しくもないので政治や政治家については既に1932年の「Xへの手紙」でも不信感が述べられている。
詳しくは拙著『小林秀雄への試み――〈関係〉の飢えをめぐって』を参照されたい(なぁ〜んてネ)。
今どき小林の未発見資料が出てくること自体はスゴイけれど、これまでの小林像を動揺させるようなものが出てくるとは考えられない。

斎藤氏は何よりも太宰治の優れた研究者であって、その紹介が無いので補足しておきたい。
所属も「大阪大院文学研究科」と記されているが、「大阪大大学院文学研究科」が正しい表記のように思われる。
斎藤氏の主著は『太宰治の小説の〈笑い〉』(双文社出版)は研究史に残る価値ある著書なので、「火花」を読んだ学生諸君は次にこの太宰論に挑戦してもらいたい。