(増補版)「母と暮らせば」  加藤健一  つかこうへい

昨日のブログは眠気と闘いながら記したので、イラついていただけでなく誤記も多かったので訂正版として更新したけれど、「母と暮らせば」は多くの字数が必要なので新たにここに書き直すしだいです。
原作は「父と暮らせば」と断言してしまったけれど、これが広島の原爆だとすれば井上は長崎の原爆を別に作品化しようとしたらしく、それが未完成のまま別の表題で残されていたらしい。
井上ひさしの娘がこれを山田洋次に映画化を依頼したようで、実現したのがこの映画。
「父と暮らせば」は爆死したのは父だけれど、「母と暮らせば」は主人公(嵐の二宮)が爆死して残された恋人(黒木華)と母(吉永小百合)への思いが立ちきれずに亡霊として現れるという設定。
井上戯曲は出来不出来の差(というよりボクの好みの揺れ?)が激しいと思うけれど、個人的にサイコーだと思うのは「国語元年」(中公文庫)で絶対おススメ!
白黒テレビの頃にNHKで観てメチャ笑えて心底から感銘を受けたので、これが今でも観られるようにDVD化されていればいいのだけれど。
(ボクはBSで放映した時のものをビデオに録画してある。)
配役とその演技がものすごくハマっていて、それぞれの方言が上手くて笑いが絶えない。
特に主人公の妻役のちあきなおみ(鹿児島弁)と佐藤慶会津弁)と○○(「父と暮らせば」でも熱演した名役者)がイイ。
佐藤慶会津生まれだそうで上手いのももっともだけれど、「あいづ」を「ええず」と発音したところはさすがだったが、その後「えいず」と聞こえてまた笑った。
佐藤慶といっても今どきの人は知らないか、大島渚の映画には欠かせない味のある名優だったけど。

大事なことを記し忘れた。
上海の小父さんという登場人物が出てくるそうで(けっこう重要人物らしい)、これを加藤健一がやっていて宣伝のテレビ番組で吉永小百合がその演技にとても感動していた。
それもそのはずで加藤はその昔はつかこうへい事務所の主要な役者で(それも「つか」が他の劇団から引っこ抜いたと聞いた)、ボクが初めて「熱海殺人事件」を紀伊国屋ホールで観て感激した時の金太郎役(ブス殺し犯人)を見事に演じていたものだ。
警部役だった三浦洋一は亡くなってしまったが、ヒラ刑事役の平田満(今はテレビでもよく見かける)に比べると加藤の声の出方は抜群だった。
つかこうへいも「熱海殺人事件」も共に20世紀を代表するものとして歴史に残るだろうから、せめて新潮文庫で読める「小説熱海殺人事件」を味読してもらいたい。
これは原作に手を加えた(つかのいつものやり方ではあるが)ボクが観た時のヴァージョンで、一番笑えるものだと思う(阿部弘その他のヴァージョン3・4本をテレビで観た上での評価)。
原作より面白くて、「変な目で見るからヘンミ(偏見の誤読)ちゅうのヨ」という台詞は今でも忘れない。
つか事務所が解散後も加藤健一事務所で活躍し続けていて今でも多くの客を集めているが、一人芝居の「審判」(作者名が出てこない、パで始まる記憶があるけど)を2時間半しゃべり続けたのを見た時はブッタマゲたものだ(この作品を江守徹が初演してそれ以来の舞台だった)。
ソ連軍に急襲されたドイツ軍が放置した捕虜4人が、一人一人仲間を食べていって最後に残ったヴァホフという男の語りで、テクストを読むだけでもスゴイ!
(希望者には貸します)
話を戻すと、加藤健一は日本を代表する役者(男では江守徹平幹二郎・仲代達也・役所広治などか)の一人に入るだろう存在で、吉永小百合が今さらながら驚くのが無知と言っていい。
小百合が寅さんみたい、と言っていた気がするがナルホドだ。
というわけで、映画もおススメできるものだとは思うけれど(たぶん)、観るなら加藤健一の演技に注目して欲しいものだ。
ずいぶん前のブログに記したと思うけど、若い頃の加藤が「麻雀放浪記」という真田○○の主役映画に出演していたのを、偶然テレビで見て驚いたこともある。