昭和文学会・12月研究集会  石崎等  長谷川雅美  香西秀信  

学大を会場にして昭和文学会が開催されるのは、実に久しぶり。
前回は7・8年前だったか、ボクが会務委員長だった時で盛大だったという記憶はある。
その時にソツ無く運営してくれていたのが立大院生だったヒッキー(疋田雅昭)君だったのだから、人間は不思議な縁で結ばれているものだと思う。
今回は2会場に分けて8本もの発表を設定したという、学大では前代未聞のスケールの学会だった。
全体を仕切っていた会務委員の大井田さんもタイヘンだったろうが、柴田助手まで駆り出して院生たちと一緒に、会務委員と協力しつつ会を支えたり盛り上げたりしてくれたのは元教員としても誇らしい。
知らない人もいるだろうから付け加えておくと、第一会場で司会を務めていた竹田志保(通称ジッポ)さんは学大修士学習院博士です。
どうでもいい情報まで付け加えておけば、藤女子大卒業なので中島みゆきの後輩ということでもある。

若い人たちの成長ぶりを見るのも嬉しいものだけれど、当日一番嬉しかったのは石崎等さん(立大名誉教授)に会えたこと。
ボクが会務委員長の時に昭和文学会に入会してくれた著名人が、この石崎さんと山田有策さん。
昔は学会でも顔を合わせる機会が多かったのだけれど、このところトンとご無沙汰、嬉しくて思わずハグし合っていた。
それを目の前で見せられたムック君(立大博士)が気持悪そうな表情を見せていたけれど、「オレ達はこういう関係なのだ!」と言ったら苦笑していた。
ともあれ目の回りにチョッと老いを感じさせる程度で、ほとんどお変わりなくて安心した。
ご本人も言っていたとおり、朝日新聞だけでなく以前紹介した絵入りのオモシロ本などで漱石に打ち込んでいるので、学会どころではないとのことだった。
大岡昇平の発表に対して少々辛辣な質問をしていた心身の姿勢も昔のままで、健在ぶりを示していたのでホッとしたものだ。
続く中上健次の発表には山田さんが突っ込んでいたけれど、このご両人の活躍ぶりを見てると時代が数十年前に戻った感じで心強かった。
ボクも最初の福田恒存の発表に対して疑義を呈したので、まるで第二会場は老人たちの同窓会(?)に転じた模様(もう1人の質問者だった花崎育代さんは除外しての話)。
会務委員の挑発的企画に乗せられたということだったのかナ?

ボクは4本目の山崎豊子には全く興味がなく読んだこともないので、この時だけは第一会場に移ったけど皆さん同じ気持だったのか第二に残ったのは10人足らずだったのはカワイソーだった。
とはいえ最後の発表が質問する余地が無いほど低調だったので、山崎豊子について知るためだけでも第二に残った方が良かったかも。
ボクが聴いた発表では福田恒存論が群を抜いて良かった。
批評における(語り手の)「私」の虚構性を取り上げたものだけれど、この問題設定がとても新しく感じられながらも十分理解できず、ボクの小林秀雄論の第4章のテーマである《「私」の仮構線》との接点も気になって質問した。
時間切れで発表者の長谷川雅美さんがレジュメを十分に紹介できなかったせいもあり、趣意を改めて説明したもらったら少しは理解に近づけた気もした(懇親会で煮詰めて話せたのは収穫)。
とにかく今どきの学生が福田恒存に関心を抱いてくれることだけでも嬉しいのに、指導教員の石川則夫さんの薫陶で小林秀雄も吸収している長谷川さんのような研究者が現れたのはホントに嬉しい。
卒論指導の際に石川センセイからは福田恒存はアブナイから止めるように言われたそうだけれど(懇親会での挨拶)、それに抗して恒存研究に励んだというのだから長谷川さんには十分期待できるというもの。
ボク等の世代では神格化されていた吉本隆明が、保守的な評論家でも江藤淳は1作品以外は全て評価できると言い、福田恒存の批評文の中から数篇を読む価値があると書いていたのを思い出したので長谷川さんに伝えた。
実はボクにとって福田恒存といえば、宇都宮大学の頃の同僚だった故・香西秀信さん(国語教育)がまず思い浮かぶのだが、彼こそは福田恒存がほとんど評価されない時代に恒存を読みこんでいた人だった。
モノを書く時は、まず福田恒存全集を一通り読んで気合を入れてから書き始めるのだという、オモシロい人だった。

山田さんも参加すると分かっていたので、学大近代文学専攻の仲間が集まって「同窓会」をやろうとメールで呼びかけたけど、来たのは前回のゼミの参加者だった2人だけだったのは残念。
でも懇親会の前にヒッキー研究室で山田先生を囲んで話せたのは収穫で愉しかった。
酔った上でのケガや事故が多いので外で呑むのは控えているけれど、学大が会場なのに懇親会に出ないのは失礼と思い参加したら、退職者は会費2000円というので嬉しい驚きだった。
インフルエンザが抜けなかったのか、声も体調も本調子でなかったので酒もツマミもあまり美味とも感じられなかったけれど、終わってから場所を移して山田さん・大井田さん・疋田さんとボクの教員4名と、助手のアザミちゃんと院生3人で呑んでいたら調子が戻ってきた感じで、味が感じられるようになってきた。
怖いのでビールだけにしたお蔭で無事に帰れたけれど、4代の教員が仲良く呑んでいる姿は他の大学では見られないものかもしれない。
これに山田さんより年長の内田道雄先生を加えても、やはり和らいだ雰囲気で飲食するのは100パーセント間違いない。
所属は国語教育ながら、また当日研究室で卒業生とサブカル研究会を開催していた千田洋幸さんが加わったとしても、和やかな感じで呑んでいたことだろう。
専門を同じくすると、つい対立してしまうのが教員の狭量さの現れで、有名なのは早稲田大学かな、昔は専修大がヒドかったけど。
宇都宮大学にいた頃には家庭科の女性教員が対立していたけれど、学生が犠牲になる場合が多いので全国の大学教員に自制を促しておきたい。