大井田義彰(編)『教師失格 夏目漱石教育論集』

元同僚の大井田さんから漱石のエッセイ集を贈られたので紹介したい。
同僚だったからというだけでなく、また東京学芸大学出版会(1500円)から刊行されているからというだけでもない。
最近漱石について話をしたばかりだけれど、これは漱石に関する本としてはタイヘン珍しいもので、ボクもほとんど読んだことがない文章がたくさん収められているからだ。
それも「教育論」ばかりであり、さらに「教師失格」という観点で読めるものだから興味を惹かれないわけがない。
大井田さんの解説が行き届いているので、それぞれの文章が漱石の活動における位置付けが明確に分かるのが有り難い。
「教師失格」はあくまでも漱石自身のことを言ったものだけれど、どのように「失格」なのかは読んでのお楽しみ。
唯一よく知られたものである「私の個人主義」を措くと、ボクが読んだことがあるのは「永日小品」で語られているクレイグ先生だけかな。
「永日小品」は院生の頃に越智治雄先生(故人)の授業で読み方を教えていただいた懐かしい作品であり、中でも漱石の記憶にあるクレイグの在り方が忘れられない。
ロンドン時代を語った文章では「自転車日記」と共に笑えるものの一つで両方おススメしたい名文だけれど、「自転車日記」が漱石の自虐ぶりがハチャメチャに面白いのに対し、クレイグ先生はクレイグの存在自体が独特でたまらなく可笑しい。
漱石が個人教授をしてもらいに通ったシェークスピア学者なのだけれど、その自己閉塞的なわがままぶり(幼児性)は漱石の一面にも通じるものだろう。
だからこそクレイグの死の報せを聞いた時の漱石のさり気ない書き方には、先生の人生に対する悲痛な共感が伝わってくるのだけれど。