太宰治「お伽草紙」  石川淳「名月珠」

お伽草紙」から「カチカチ山」を取り上げたハンさんは、太宰研究に年季が入っているだけでなく、TAの関口クンにあらかじめチェックしてもらっていただけあって、留学生としてはまとまりのある発表だった。
しかし「お伽草紙」の中では「カチカチ山」だけが、他の「異郷話」とは異なる「動物話」だと規定するのは無理がある。
第一「異郷話」(異郷譚の方がイイかな)と「動物話」は対にならないし、「カチカチ山」の兎と狸は「動物」としてではなく「人間」として言動しているのではないか?
また読者が「狸の失態を書きつらね、哀調を帯びた共感を示していく」としているが、「哀調」というイメージは太宰文学に全然ふさわしくないので避けるべきだろう。
困った点としては、「語り手」とあるべき所を「太宰」と言ってしまう点と、先行研究に不用意に乗って兎に「母性の欠如」を読んでいるが方向違いもはなはだしいし、先行研究も選び損なっている。
佐藤隆之という人の愚論であるが、太宰研究はぼう大な量にのぼるので選び抜かれたものを読まないと時間の無駄になるだけだ。
ハンさんが上げている文献では、東郷克美・三谷憲正・木村小夜松本和也などは信頼できる研究者だ。
相馬正一さんは実証・調査は上の上だけど、テクストの読みではせいぜい中の上辺りかな。
ともあれ太宰研究はメンドクサイ面がありながらも、留学生のハンさんが果敢にチャレンジしている姿は好もしい。


次回は石川淳「名月珠」を、石川淳の専門家である関口クンが発表するので楽しみ。