法政大学大学院非常勤講師の感想

感想を求められるままに書いたエッセイで、近々公刊される模様。

 

法政大学からの収穫

                関谷一郎

二年間の授業も終り、成績も提出し

てから元のフリーの身に戻り、ホッと

しているところです。そもそも東京学

芸大学を定年退職する際に、特任教員

として残る(概ね一年)ことをお断り

して若い研究者に道を譲り、ノンビリ

三年過ごしていました。そこに大学院

後輩の中丸宣明さんから法政大学の非

常勤講師の依頼をいただき、これも若

い研究者のことも考慮しながらも、大

学院の授業と聞いてお引き受けするこ

とにしました。若い人には年齢も近い

院生を相手にするのは荷が思い、と考

えたからでした。

後で知ったのは、法政大に特任教員

として残るのを断った川村湊さんの代

りの一コマということだったので、学

大の特任を断った私が法政の特任を断

った川村さんの代打を務める、という

構図に苦笑しました。昭和文学会の会

務委員長をしていた頃に、川村さんに

は多大なご協力をいただいたり、サハ

リン訪問時の逸話などをお聴きしなが

ら、信頼できるお人柄に打たれたのを

忘れません。出たばかりの『異郷の昭

和文学』( 岩波新書) を買ってきて、

署名をしてもらったこともありまし

た。

もちろん若い院生たちから刺戟をも

らいたいという気持もあったのは、歴

史ある法政大の院生なら十分期待でき

たからでした。学大時代にも留学生が

多数いましたが、法政院ではその比率

がむやみと高いので驚きましたが、学

大には多かった韓国の留学生が皆無だ

ったので、政治的状況による変化なの

かと考えさせられるところがありまし

た。留学生のレベルはさまざまでした

画、概ね真面目な姿勢で取り組んでい

たのでやりやすかった二年間でした。

少数の日本人院生のレベルは想定を

遥かに超えていましたが、安部公房

徳田秋声三島由紀夫石川淳・龍胆

寺雄などを読み返しながら、期待以上

の収穫を得ました。三島以外は読み込

んだことが無かったので、初めて読ん

だ作品を議論しながら文字どおり種々

教えてもらいました。こちらの方針は

《読み》から作家を排除しつつ、テク

スト(本文)だけで解釈するというも

のだったので、小田切秀雄・勝又浩さん

等の伝統に慣れた院生や留学生には、

当初なじみにくかったかもしれませ

ん。それでも作家や現実世界をテクス

トに導入する(例えば登場人物を作家

に置き換える等)ことはテクストを解

釈したことにはならないと繰り返した

お蔭で、現在の研究状況に合致した読

み方ができるようになったという手応

えを感じています。

法政大学のスタッフには旧知の中沢

けいさんもいて、催しごとにお会いで

きて懐かしかったです。中沢さんは昔

学大で文芸創作の授業を担当していた

だいたことがあったのですが、受講者

が多すぎて思いどおりのことができな

かったようで申し訳なかったです。後

に法政大の創作課程の教員になったと

知って、ひとごとならず喜んだもので

す。江戸東京研究センターのシンポジ

ウムでは、学生時代に留年して同級生

になった山本真鳥さん(旧姓石川)に

出会いビックリしたのも忘れません。

総長の田中優子さんは、TBS「サン

デーモーニング」などでの発言に説得

力を感じていたものでしたが、学大在

職中に学内ハラスメントに対応できな

かった村松泰子学長の無能ぶりと比べ

るまでもなく、女性指導者としても優

れたご活躍ぶりだったので、何だか学

大が法政大学に負けているような気に

もなったものです。

(大学院・兼任講師)