【読む】「戦争と平和」(トルストイ)を読みやすく  望月哲男の訳  斎藤理生『小説家、織田作之助』

 この2週間超、尿管結石による痛みや薬の副作用(?)のせいか、眠気が強かったり・集中力が落ちたりでなかなか読書ができなかった。それが痛みが引いたお蔭でボチボチ本が読めるようになってきている。そこにタイムリーにも面白い著書を立てつづけていただいているのが有りがたい。今まで何度も紹介してきたバフチンドストエフスキー詩学』(ちくま学芸文庫)の役者・望月哲男さん(学部時代のお友達)の翻訳によるトルストイ戦争と平和1』(全6巻、光文社古典新訳文庫)と、斎藤理生『小説家、織田作之助』(大阪大学出版会)の2冊だ。

 日本のドストエフスキー研究の中心人物の望月さんがトルストイを翻訳するというのはイメージに合わないけれど、既に「アンナ・カレーニナ」や「クロイツェル・ソナタ」等を訳しているのを今度初めて知った。個人的にはドストのファンのせいか(?)、トルストイは敬して遠ざけ続けているので、本は持っていてもほとんど読んでない。1年近く前だったか、「戦争と平和」の有名な戦争場面をチョッとだけ読んでみたけれど、想定どおりで読みにくくて関心が薄らぎ、一生読まないかもと感じたばかりだった。それが望月さんの訳で第1巻から読み始めたところ、メチャ面白いのでビックリしている。手許の中村白葉の訳と比べるとハッキリするけど、読みやすい言葉で翻訳しているだけでなく、注が充実しているのでものすごく分かりやすい。同じ作品とは思えないほどだ。第6巻が出版されるのは来年の秋になるとのことだけれど、頂戴した第1巻が読み終えたら、望月訳を待てずに白葉訳で読み続けてしまいそう。そのくらい作品の面白さがスムースに伝わるような、スバラシイ翻訳だネ。今まで「戦争と平和」から距離をとっていた人には、絶対おススメ!

 

 太宰治研究ではトップランナーの1人として著名な斎藤理生さんが、(太宰研究者としては)珍しくオダサク(織田作之助)研究に手を伸ばしていることは知っていたけれど、まさか1書を出すほど研究が進んでいるとは驚きだった。でも「論文を教養書としてまとめ直した」ということなので、そういうものと受け止めて関心のあるところを読み始めたところだ(きょう落掌したばかり)。第Ⅱ部の第三章「オマージュとしての一人称」を読んでいるのだけれど、レベルを下げた「教養書」どころではない刺激に満ちた批評・研究書としての迫力が伝わってくるので、オダサクに興味のある人には安心しておススメできる良書である。退職後の読書の楽しみとして、オダサクの全集をゲットしてあるのだけれど、これで読むキッカケができたので斎藤さんの著書を案内に読み始めてみよう。皆さんにはとりあえず、在職中に授業でテキストにしたこともある、ちくま文庫の作品集が入りやすいかな。