【読む】一柳廣孝『怪異の表象空間』(国書刊行会)  茂木謙之介(編著)『怪異とは誰か』(青弓社)  構大樹・吉田司雄・谷口基

 学大の博士課程は「東京学芸大学連合学校教育研究科」とは言いながらも、実質は横浜国大・埼玉大・千葉大教育学部の「連合」で成り立っているので、一柳さんとはその関係で知り合うことができて幸せだった。ボクの守備範囲からは全く外れるこっくりさんとか催眠術とか、無知な分野でいながらもそそられることを追求して教えてくれるので、『〈コックリさん〉と〈千里眼〉』や「催眠術の日本近代』などは自宅や研究室に備えて学生にも勧めていたものだ。その一柳さんが研究の集大成かと思われる大著を出版したので紹介したい(これで3600円とは安い買い物だ)。とはいえ相変わらず無知な身なので、書名と目次からのツマミ食い程度を記すくらいしかできない。のみならず、無知はそのままでトシのせいか関心も薄らいでしまったので、具体的に論の中身には触れることもできない。

 それも当然で、こっくりさんや催眠術の頃に比べれば、一柳さんの守備範囲は誰もその足許にも及ばぬほど広がりと深さを具えているからだ。大著の副題である「メディア・オカルト・サブカルチャー」もそれを表明しているとおり、江戸からひき続く幽霊やら都市伝説やらアニメの「もののけ姫」に至るまで、〈文学〉の狭い世界を遥かに超えて様々な読者を刺激し・誘っている。ご多分に洩れぬ百物語やら圓朝やらが論じられているのは、一柳さんの傑出した文学研究のテリトリー内の手腕によるものながら、たくさんのライト・ノヴェルの作品名や稲川淳二の名を見れば、俄然読みたくなる読者もいるはずだ。

 その点ハードルが低くて入りやすい読み物ながら、実は厖大な参考文献を吸収した上での確固とした研究書として金字塔を打ち立てた書として受け止めたのは、私だけではあるまい。僚友・吉田司雄さんや谷口基さん等と共に、近代文学研究の枠を大きく広げた記念碑に違いない。この際だからと、一柳さんの指導の下で博士号を得た構大樹さんから(?)頂戴したまま放置してあった『怪異とは誰か』(青弓社、2000円)を取り出し、大著よりは馴染みやすい〈文学〉のテリトリー内の龍之介(小谷瑛輔)・火野葦平(構大樹)・三島由紀夫(松下浩幸)・村上春樹(岡田康介)・川上弘美(高木信)を論じたものにチャレンジしようと思っているところ。