【読む】五味淵典嗣

 松本氏の書を読んでいたら、五味淵典嗣さんの名前が目に付いたのだけど、(未読なたらも)谷崎潤一郎の専門家というイメージが強かったので意外だった。その中に以前小林秀雄火野葦平の「友情」を論じた抜き刷り(2015年)を送っていただいて拝読したのを思い出した、ボケだネ。力量のある研究者が小林に関係する論を書いてくれている喜びは感じたものの、抜き刷りだったので(慣例にしたがって)礼状は控えてしまったのは覚えている。その後、松本論で知ったのか、『日本近代文学』?に掲載された戦争期の昭和文学を論じたものを拝読して、種々教えられたのは覚えている。

 その五味淵氏が単行本を出しているのを知り、『プロパガンダの文学』(共和国)ユウ君にアマゾンに注文してもらったけど、これだけは在庫が無いし定価の通りの価格だという連絡がきた(他の本は大体定価よりかなり安価だったの驚いたネ)。在庫はないけど注文してもらったら、しばらくして送られてきたのでホッとしたネ。どれもすぐに読みたくなる論文が並んでいてワクワクしたけど、松本氏のみならず、優秀な研究者が戦争期の昭和文学を論じてくれるのは、自分の関心に合致しているので嬉しいかぎり!

 五味淵氏のアプローチの仕方は「はじめに」に明快に語られていて期待十分ながら、「おわりに」の坂口安吾「真珠」論には失望したので収録を避けた方が良かった、というのが素直な感想。ボクが『シドクⅡ』で「真珠」を取り上げながら、安吾文学の特殊性を強調しているので、そのために不満を感じるのかもしれないけれど、このあまりに素直な安吾理解には同じられない。安吾は一筋縄ではいかない面倒な作家なので、簡単に反戦的立場だったとか言いきってしまう論者のテクスト理解力には、疑問を持ち続けてきた。ここでも単純な二分法は危険だ、というのがボクの立場だ。

 発表時を見たら、他の卓論とは異なる五味淵さんの初期の論らしいので、敢えて本書に収める必然性はなかったように思えてしまう。個人的には初期ゴミブチには関心がないので、以前読ませてもらった小林論を含む他の章をジックリ勉強させてもらいたい。