【読む】山田俊治『福地桜知』がスゴイ!  人並み外れた能力と意欲

 前に署名だけ紹介した本をチョッと覗いてみた。面白そうなところと思って「車善七」という新聞連載小説についての叙述(評伝だから論とは記さない)を読んだのだけど、(直前の「廻る因果」という連載についての叙述と同じく)むやみと複雑なストーリーを簡潔にまとめるものの、それでも2ページくらいの長さになってしまう。家康の命を狙いながらも失敗し、許されて家来になるのだけれど望んで非人頭となったという主筋は知っていたけれど、こんなにあれやこれやあった果ての人生だったのかと呆れるくらい。作品を読むだけでも時間がかかるだろうし、それをここまで分かりやすい簡略なあらすじにまとめる苦労はさぞやと察せられる。

 こんな調子で400ページほどの書を刊行するまでいったい何年の月日を費やしたのか、人並み外れた能力と情熱のなせるワザであることは誰も否定しえまい。惜しむらくは福地桜知自体がほとんど忘れられた存在だということ。それでもこれほど充実した評伝を書き上げたシュン爺のみなぎる熱意のお蔭で、桜知も文学史に埋もれてしまうことは無かろう。言うまでもなく、ボクにはこんなに詳細な評伝を書ける文学者は1人としていないし、シュン爺のような無私の意欲などその100分の1さえも持てない。ただただ頭が下がるだけだ。

 今年度のやまなし文学賞は決まりだネ。