【見る】「ヒューマニエンス」の「自由の意志」特集は失敗  番組「アインシュタイン」のアスペルガー特集

 NHKBSプレミアムで予告編を見かけてとても期待していたけれど、見終ろうとしている今の印象は全然スッキリしない。いろいろなものを混同したまま進行していくので、「?」を抱いたまま納得できないまま終ろうとしている。人間が「意識」よりも遥かに大きく「無意識」に左右されているということは、ユングの概説書(河合隼雄)を読んで実感していたところだけど、番組では「無意識」と「神経」(特に自立神経)とを混同しているとしか思えない。脳科学者(ザンネンながら中野信子さんではなかった)の男がアメリカ(?)の心裡実験を誤解しているための混同かもしれないけど、信頼するいとうせいこう(「想像ラジオ」の作者)までもが小説の人物が勝手に動き出すのを、作者の無意識が作動していると発言してしまっている(登場人物が「意志」を持つかのように動き出す、というのが正確だろう)。(バカとも思えない)脳科学者が「ゾーン」に入るのだとまとめたけれど、登場人物が勝手に動き出すのと作家の「無意識」が現れるのとは位相が異なるとだろう。

 ともあれ「無意識」と「神経」との差異をキチンと説明しないまま、同じように「意識」に左右されないものとして括(くく)ってしまうので、論点が不明確の度を増すばかりで説得されない。これをクリアしない限り、番組は成立しないと思ったネ。

 

 「ヒューマニエンス」のこれまでの特集はとても面白くためになるので、再放送まで見ることがあって最初の「性」を取り上げた再放送を見た時は、人間のシリアル・モノガミー(一夫一妻制)は4年も持たないという調査結果がとても説得的だったネ。モンロー主演の有名な映画「七年目の浮気」などを例に、7年が限度という考え方もあるけれど、4年説は分母の大きい統計に基づいているので納得できる。この点では「先進国」のフランスでは、8割以上(?)が離婚した後それぞれ子連れで再婚するのが一般化しているので、遠い(?)将来では日本でもそうなって行くだろうという想定がしやすいというもの。そういう時代に生まれたかった、というわけでもないけどネ。

 

 これを書きながら、続く番組「フランケンシュタイン」を見ているのだけど、症候群の名前にもなっている医師ハンス・アスペルガーは当初特異な能力を持つ子供たちの可能性に期待していたそうだけれど、ナチスの世になるとナチズムの優性保護思想による犯罪に手を貸して、アスペルガー症候群の子供たちを虐殺したとのこと。ニュルンベルク裁判では、アスペルガーを含むナチスの犯罪に協力した医師たちは罪を問われること無かったとのことで、戦後アスペルガー自身もその罪に向かい合うことなく(犯罪に関わらなかったと主張して)長寿をまっとうしたという。アウシュビッツ収容所でユダヤ人の大量虐殺に関わった有名なアイヒマンが、逃げ回った末に逮捕されて死刑になったのが対照的に想起されるネ。

 戦後のアスペルガーは、過去の己の研究についてはいっさい語らなかったという。番組には3名のゲストが出演していて、その1人がハンス・アスペルガーは時代に振り回されたので、可哀そうな面もあると言っていたけれど、ボクはそうは思えなかったナ。アイヒマンを許容してしまう考え方は、たった1人でも拒絶し続けなければならないと思うネ。どんな時代にしろ、《同調圧力》には巻き込まれないようにしないとネ。