【読む】オルテガ「大衆の反逆」  西部邁→中島岳志  

 やっとオルテガの「大衆の反逆」(寺田和夫訳・中公クラシックス)を読み始めることができた。ずいぶん以前から読みたいとは思いながらも果たせず、せいぜい西部邁の「大衆への反逆」(「の」じゃなくて「への」)を拾い読みできた程度だった。振り返ればオルテガに関心を抱いたきっかけが西部邁の連続テレビ講座(今で言うEテレ)だったし、今回やっと読み始める決意を持てたのはその西部邁を「師」と呼ぶ中島岳志さんの書に感銘を受けたためだ。

 さすがに本家のオルテガは素晴らしいし、面白い。とはいえまだ本論の10ページにも達していないのだけど、序文(?)の佐々木孝「今日的オルテガ」が実に重要なことを教えてくれるので驚きだった。あるアメリカの文化評論誌が、「大衆の反逆」がルソー「社会契約論」と「資本論」と並んで20世紀を代表する著作だと認定しているとのことだけど、そんなに意義のある本だったのか! 

 スペインという存在について深く考えたことないけど、極めて独自なのでビックリだ。

 《スペインは、あるいはスペイン文化は、天上と地上が、形而上と形而下が、精神と物質が、垂直的視点と水平的視点が、あるいは貴族と平民が陸続きというか混在している文化なのだ。スペインの理想主義と現実主義の関係もけっして二元論的対立構造にはならない。ちょうど物語の最後でドン・キホーテがサンチョ化し、サンチョがドン・キホーテ化されたように。》

 キホーテの〈行動〉とサンチョの〈認識〉との対照を、二項対立とばかり思っていたのに、双方が対立を解消していくという文化と言われて感動したネ。それには西欧の行き過ぎた〈理性〉偏重とは異なる、〈理性〉と〈生〉とを相互補完的な関係にあると捉えたのがオルテガの手柄だったということだ。この貴重な〈平衡感覚〉は(関谷一郎小林秀雄への試み』の第二章で小林の保持していたものとして論じられているが)、それには大航海時代を領導したスペインが、新世界で絶対的な〈他者〉に出会ったために誕生した人間観から生じた感覚だという。衝撃的な捉え方でただただ驚くばかり。

 西欧が〈理性〉偏重のまま一元的に(フランス革命に直進してしまったのとは異なり=とまでは書かれてないが)閉塞したのに対し、スペインはレコンキスタによってイスラム勢力(とユダヤ教徒)を排除して国家統一を成し遂げたものの、イスラムと特にユダヤ教からの改宗者の系譜とがその後のスペイン形成を隠然と支えていたという。単一ではないスペインの在り方こそが、〈生〉を重層的に見ざるとえない独特な立ち位置を形作ったというのは、初耳ながらいたく納得したネ。

 この序文だけでも一読の価値が十分ある、おススメ!