【見る】老大統領の恋  「地球タクシー」 メイさんとの「論争」 「文学的価値」と「政治的価値」 ノムサンとサッチー   

 今までも1度ならず推薦してきたNHKの「地球タクシー」だけど、パリ版はことのほか面白い。8日の昼間に50分かけて数人のドライバーの話を聞いたけど(実は再放送だから初めて聞くわけではないのに)、どのドライバーもそれぞれ賢くてエスプリを感じさせてくれるので感心する。日本の運転手からは感じたことがない感覚だネ。

 中でも女性(けっこうおトシの)ドライバーが、ルーブル美術館の前を通りながら、その入り口付近にあるガラス製のピラミッドの説明として、「あれは大統領からの愛のプレゼント」とか言ったので驚いたヨ(初耳ではなかったはずなのに忘れていた)。聞けば老ミッテラン大統領の若い恋人がルーブル美術館学芸員だったとのこと。ミッテランルーブルの前に何を作ろうか? と彼女に相談したら、ピラミッドと言ったので「イイね!」と応えて創ったらしい(もちろんコンペでネ)。

 実はミッテランに若い愛人がいることが発覚した時、別件の記者会見で「愛人がいるそうで?」とかいう質問を受けたとたんに「そんなの関係ねエ!」(言葉は違うけど別問題だという意味)と応じてスルーしたのはけっこう知られているのではないか。文春などがシツコク追及する日本ではありえないことだけれど、そもそもフランスでは公的なことと私的なこととの混同はしないのが常識(良識)のようだネ。個人の評価は仕事でやるべきで、私的な問題を評価にくり込むのは誤りという判断が共有されているらしい。女性タクシーもそれを前提にした発言だったネ。

 

 メイさんとの「論争」でもミッテランの例を出したのだけど、メイさんが太宰や安吾を非難する時に彼らの私生活のだらしなさを言い出したからだネ。「文学的価値」と「政治的価値」とはまったく次元が異なるから混同するのは大きな間違いだと思うから、作家の私生活がどんなに乱れていようが、彼らの文学(作品)の価値とは直結しない別物だと言いたかったのだナ。そもそも太宰など、人間としてはサイテーのレベルだからネ。それがハイレベルの文学作品を創造するところがオモシロいのだネ。

 ボクが宇都宮大学にいた頃、卒論として350枚以上の「走れメロス」論を提出した女子がいたけど、ベートーベンの交響曲第7番と関連付けた論法はしばらく措くとしても、同僚の近代文学研究者が「太宰の作品などに、こんなにたくさん書く必要なない」というような否定の仕方をしたのだヨ。大分年上の大先輩の同僚だったけど、ボクは引かずにその論の素晴らしさを強調したら、先輩教員は気まずそうな表情だったネ。学徒動員で戦争に駆り出された体験を持つ先輩で進歩的な考えを持つ人だったけど、そういう類の人は概ね太宰文学に対して否定的だったネ。評価する時はせいぜい「太宰は荒れた生活をしていた時期もあったけど、左翼活動していた時もあった」などという誤った評価の仕方をしていたヨ。

 

 去年亡くなったノムサンも、南海ホークスの監督時代にサッチーと付き合っていたら、球団から不倫を理由に監督をクビになったことがあった(けれど知ってる人は少ないか)。個人的にはサッチーはジャミラに通じるところがあるので嫌いだけど(ノムサンもサッチーが息子を恫喝して逮捕された際には、ドーベルマン呼ばわりしていたけど)、野球の監督の才能と私生活における女性関係の乱れとは直結しないのにネ。でも日本人はこの2つの価値を混同して考えるから、ノムサンがクビになれば納得してしまうし、週刊誌が提供する話題に乗りがちなのだネ。ノムサンはその頃もその後も(阪神時代は結果を残せなかったけど)野球の監督としては素晴らしい歴史を残したものの、私生活では太宰には及ばないながらもチョッと活躍してしまったのだネ。ただ女性問題と専門業とは直結して評価できないのだネ、簡単なことながら混同しやすいから十分気をつけて下さい。