【読む】綾目広治『小林秀雄 歴史のなかの批評』(アーツアンドクラフツ、3200円+税金)

 実はゼミ部の前に贈っていただいて読み始めていたのだけど、ゼミの準備のみならずその後の「論争」が長引いてしまったので、読後感が延び延びとなっていた。綾目さんから頂戴した本はこれで7・8冊目くらいになるのかナ、「量より質」のボクと正反対でむやみと本を出す人だ。それも小林秀雄中心に紙クズ以下のレベルのものばかり出している佐藤公一とは異なり、綾目さんは常に合格点の付く出版ばかりだからスゴイ。正直言うと実際に読んだ収録論文は多くないけれど、拝読したものから推察しても、何を論じようが水準以上の結果を出していると信じることができる。

 その判断は綾目さんという人に対する信頼に基づいてもいるのだけど、いろいろ助けてもらったものなのだネ。『解釈と鑑賞』(至文堂)で戦後批評史の特集を3回にわたってやったのだけど、監修の故・柘植光彦さんから服部達を引き受けた人が原稿を送ってくれないので困っている旨の相談を受けた。ボクは吉本隆明を担当していたのだけれど、例によって書いてなかったボクが「服部をボクが引き受けて、吉本は綾目さんに頼みましょう。」と提案したのだネ。綾目さんなら吉本のような理論立った批評家を短時日でも論じることができる、と確信していたからだ。その場で綾目さんに電話して頼んだら二つ返事で引き受けてくれたヨ、さすがだネ。

 もう1つはボクが日本近代文学会の理事に選ばれてしまった時、地方学会を引き受けてもらえる大学がなくて困っていたので、ボクが綾目さんに頼みましょうと提案して承認してもらった上で、その場で綾目さんに電話して説き伏せたのだネ。岡山のノートルダム清心女子大学が初めて会場となったのは、そういう経緯があったのだナ。

 

 読んだ論文が多くないのは、ボクの読書スピードが遅いので読める量が少ないだけでなく、何よりも綾目さんとは守備範囲が違うのが大きい。綾目さんは経済学部卒だけに理論に強いので、その手の文学者を取り上げることが多い印象だ。だから小川洋子松本清張柴田錬三郎や未知の俳人(西川徹郎)についてそれぞれ1冊にまとめた書をいただいた時は驚きつつも、才能の豊かさに呆れたものだ。この作家等の中では小川洋子以外には関心が無いボクからすると、守備範囲が違うというのではなく綾目さんの範囲が広すぎるのだ! こんなに何でも料理できてしまう研究者は、他の例が思い浮かばない。

 

@ 長くなったので、いったん切ります。続きには批判的(?)な切り口からの感想も書くゾ。