【読む】久保栄「火山灰地」とメイさんの論文

 自民・公明政権はコロナ禍も恐れず、オリンピック開催に向けてひた走っていて不安がつのるばかり。原発事故から流出していた汚染水をひた隠しつつ、安倍晋三がオリンピックを招致した事実を忘れない。最近では溜まり過ぎた汚染水を、改めて堂々と流出させると宣言して国際的非難を招いている(「同盟国」アメリカだけは非難を控えたとか)。オリンピックが原発汚染水に汚されているように、非政治性を唱うオリンピックも実際には時代や現実から免れてきたわけではないのは周知のことだろう。

 オリンピックを政治に利用した典型例はヒットラーだろうけど(ベルリン五輪を映画化した「オリンピア」の映像美はリーフェンシュタールの手柄ではあるものの、彼女はナチ自体のイメージも党大会の映像美で増幅したことも忘れない)、名前は有名ながらも読まれない久保栄「火山灰地」にもベルリン五輪が点景されていたとは知らなかった。実に読み応えのある戯曲なので一読をおススメするけれど、オリンピックが台詞に現れているのを読み落とさないよう、注意喚起しておきたい。

 ボクもメイさんの論文「『反復されないもの』という逆説」を読むまでは読み過ごしていたけど、登場人物である農家の娘が前畑選手を讃えた西条八十の詩を口ずさむ場面があるそうだ。他にも五輪に関するメディア報道がはらむ問題が描かれるとのことだけど、メイさんの論文は作品からマスメディアの表象を洗い出す作業がスゴイ。そのためには著名な吉見俊哉をはじめとする文献を広く漁っているのは、註の多さからも瞭然としている(29個、ただし註が多ければ良い論文とも言えない)。

 作品を読んでない人に細かく言っても仕方ないので、まずはこの傑作を読んでもらいたいネ。ビデオ・デッキのある人なら、メイさんにも貸して役に立ったというビデオテープを貸す用意もあるし(読むより楽だネ)。作品を読んだ上で、メイさんの論文を読みたくなれば読めるように手配します。ちなみに論文掲載誌は以下のとおりで、在職中は継続して研究室に具えていた雑誌だけど、今はどうかな? 立川の国文学資料館にはあるだろネ。(ちなみに国文学資料館には、クラス担任した川上千里のダンナである多田蔵人さんが4月から勤めているヨ。)

 『社会文学』第48号(2018年)