【読む】久しぶりの安吾  火野葦平(の自殺)

 久世光彦『女神(じょしん)』(新潮社、2003年)をずっと放置してあったのを、チョッとのぞき始めたら小林秀雄河上徹太郎大岡昇平などなどたくさんの著名文学者を遍歴したと書いてあるので、時々読み続けている(と前に記したと思う)。中也もヒロイン坂本睦子に惚れたものの、他の男のように肉体関係まで進めなかったと書いてあるのはヤッパリと笑えたネ。安吾は睦子の方から気に入られたらしいのだけど、関係は微妙だというのもヤッパリだったネ。というわけで、安吾の「二十七歳」(と「三十歳」)を久しぶりに読んだ。

 安吾が生涯懊悩させられた女性作家・矢田津世子が前景化されているので、17歳の女給として登場する坂本睦子については詳しくは分からないので残念だった。それでもヒグラシゼミで取り上げ続けている現代小説と比べると、安吾の小説は安心して読めるのが嬉しい。ホントはもっと安吾に集中して読んでいなければ約束違反なのだけどネ。  

 

 ヒグラシゼミの常連でボクと同世代のナオさんは、年齢より30年以上脳が若いようでボクの在職中から院の授業にも参加していて、退職後も大井田・疋田両先生の授業にも出させてもらうだけでなく、昭和・大正の両ゼミにも参加しているそうだ。参加といっても聴くだけでなく、ゼミ員同様の頻度で発表もしているというのだからスゴイ!

白内障の手術もしたばかりだそうだけど、今は火野葦平の「鯉」という作品の発表準備をしているというので、昔から葦平に興味を持っているので読んでみたら驚いたヨ。登場人物を作家を直結すて読むのはシロウトのやることだと言ってきたけれど、この作品には戦時中の葦平が抱き続けた罪意識が露骨に現れていたからだネ。葦平と言えば、戦時中の記録的ベストセラー小説「麦と兵隊」で知られているけれど、実は(中国で日本兵が犯した数多くの罪悪に対して)強い罪意識を保持し続けていたらしく、戦後も20年経ってから突然自殺したのだけど、それはあまり知られていないようだ。

 それにしても安吾といい葦平といい、読み慣れた昭和文学は安心していられるのがイイね。