【読む】牧野悠と竹田志保の論  『大正史講義 文化篇』(ちくま新書)

 現職時代に1年間(半年だったかな?)千葉大の学部に非常勤講師に行ったのだけど、その時にティーチング・アシスタントとして活躍してくれた院生の牧野悠クンから意外な本を贈られた。筒井清忠という史家が編集した、大正時代の文化について全27章にわたって分担執筆した新書である。全く知らずにいたけれど、明治史では1冊・昭和史では6冊が既に刊行されていた。贈られたのは新書にしては分厚いので1430円(税込)ながら、内容の多様性と執筆陣の充実度からして安価な買い物と言える。ボクには全然興味が無いのでいつも教えられてばかりいる牧野クンの「時代小説・時代劇映画の勃興」(題18章)を読んだだけでも、執筆者のレベルの高さは保証できる。 

 今回も「立川文庫」や五味康佑の正しい読み方を知らされて驚いたヨ。「たつかわ」や「やすすけ」と読むのだそうだけど、「ごみこうすけ」とばかり思っていたヨ。大衆小説や通俗小説と呼ばれるものは全く読んだことないけど、五味康佑はオーディオ・マニアで小林秀雄のステレオを選んだという話は読んだことがある。さらに五味は、小便の音が右から左までリアルに動くように再現するため、スピーカーのコイルを巻き直させたというエピソードも聞いたことがある。

 牧野クン(というより、今や帝京大学宇都宮キャンパス専任講師なのだから牧野さんだネ)には五味康佑と安吾の剣豪小説を比較した論文もあるし、柴田錬三郎についての文庫本も贈られたけど読んでないナ(ゴメン!)。とにかく時代小説については日本を代表する論者だネ。

 少女小説の代表的論者というわけではないけど、レベルの高い『吉屋信子研究』(翰林書房)の著書もあるジッポ(竹田志保)も第16章「『少女』文化の成立」を執筆してるネ。竹田さんは学大修士課程から学習院大博士課程に進んだ人で、こちらはモダニズム系文学の研究者なのでボクの関心にも重なる点があるから読めるのだネ。もちろん牧野さん同様、いつも教えられることが多い。両者の間の第17章「大衆文学の成立」は藤井淑禎さんが書いているし、川本三郎北原白秋などを・山折哲雄宮沢賢治を担当しているのだから、本書のレベルの高さは一目瞭然だろう。

 おススメ! 買うべし!