【読む】疋田雅昭『文学理論入門』  安心・安全な理論書  《一人一冊》

 ひつじ書房出版で2200円+税金ながら、ヒッキ―先生から買えば著者割引で2割安くなるヨ。この手の入門書は昔から種々出版されているけれど、文学理論と国語教育現場とを直接つないでいるので学生にも教員にも、とっても役立つのは間違いない。若い頃は世界に対する関心が強烈だから、世界を理解するために理論勉強に夢中になるのは好いけれど、おおかたは未消化な理論に自身が振り回されてしまう傾向も否めない。  ヒッキ―先生についは院生の頃から知っているけれど、理論を正確に理解しながら文学テクストを分析する手際がシッカリしていたのは驚きで、極めて例外的な存在だった。その上、中学や高校でも非常勤講師の経験も豊かなので、理論が抽象的な説明に終わらずに教室現場ですぐに役立つような叙述に徹している本書は、教員なら《一人一冊》(昭和初期のテロリスト集団「血盟団」の標語「一人一殺」をパロッた)の必読文献であることを保証する。もちろん学生が本書を読みこなせば、上から目線で友人に理論の説明ができるようになるのも疑いない。だから学生にも欠かせないから《一人一冊》だネ。

 分かりやすいように、全3章の章題を記す。

第一章 「文学理論」と「国語」の接点を求めて

第二章 表現あるいは構造、それ自体への注目

第三章 理論から実践へ

 特に一と三章の題名を見れば、理論と実践(教室)との結び付きを意識した著書であることが実感できるだろう。教員が教材の理解にツマったり、授業のやり方にツマったりしたら本書を参考にすれば道が開ける。学生がゼミの発表でテクストの料理の仕方が見出せなかったら、本書を拾い読みしていれば道が開けること請け合い、《一人一冊》たるゆえんだネ。

 

@ 現在、論文指導している人が「一人称小説」「三人称小説」という術語を使ってテクスト分析をしていたけれど、それ等の述語自体のアイマイさに振り回されて論理が不明確になってしまっていた。それ等の述語を使うと説明しやすいこともあるけれど、しょせん不正確な概念でしかないので自縄自縛に陥りやすい。在職中に提出された修士論文で同じ述語を使っていたものがあったので、「三人称小説と言うけれど、語り手は『私』などと自称できるわけだから一人称小説じゃないのか?」と問い詰めたら応えに窮していたヨ。その修論は落としたけど、後でジュネットも「一人称・三人称」という呼称に疑問を抱いてその著書にはそれ等の述語を使ってないことを知った。

 ヒッキ―先生の本書もジュネットと同様で、その種のアイマイな述語を使用していないところからも、安心・安全な本であることが明瞭だろう。理論書はたくさん出てるけど、アブナイ本もあるから気をつけないとネ。今持っている理論書が「三人称小説」などという怪しい述語を使っていたら、すぐに捨てて疋田本に買い換えないと生涯損害を引きずることになるヨ。