【読む】松本和也『文学と戦争』(ひつじ書房、7000円+税)

 十重田裕一さんの大著を落掌して間もないのに、松本和也さんから同じようにやまなし文学賞に価する分厚い著書をいただいた(とはいえこの賞は若い人には授賞しないようで、竹田志保のハイレベルな吉屋信子論も受賞してない)。松本さんは太宰論を連発していた頃から期待を込めて注目していた論者で、個人的には絶対読みたい数人の若手の中の1人、これ等の研究者からは多くの刺激と知見が受け取れるのが楽しい。

 その松本さんからいただいた書なので、また目の前の読書中の本が後回しにされそうだ。殊にボクが興味を失っている太宰ではなく、若い頃から関心を抱いていた昭和10年代の「文学場」(松本さんの造語)を論じたものなので、とっても楽しみだ。というと、松本さんには既に「日中戦争開戦後の文学場」「太平洋戦争開戦後の文学場」(共に神奈川大学出版局)という優れた成果があるじゃないか、という向きもあるだろうけど、初出一覧を見ても本書は前書とはダブることがないのでご安心。

 「言語分析から考える昭和一〇年代の文学場」という副題のとおり、文学史的要素も強く含む「文学場」研究ではあるものの、松本さんは作品のテクスト分析では無双の緻密さを発揮する能力を、時代分析にも展開したのが前書であり本書なのだ。松本さんは小説や評論しか論じることができない研究者ではなく、既に1書を出している平田オリザをはじめ演劇についても一線級の論者だ。嬉しいことに本書は詩歌の分野まで守備範囲を広げ、立原道造論まで論じてくれている。ますます楽しみな研究者だ。

 読むべし! とは言えるものの、定価を考えると「買うべし!」とは言いにくい定価だから、地元の図書館で購入してもらって読むべし、である。