【読む】中川成美・西成彦編著『旅する日本語』  中丸宣明『物語を紡ぐ女たち』  下岡友加・柳瀬善治編著『「台湾愛国婦人」研究論集』

 このところ少なからぬご著書や雑誌を贈っていただいているものの、プーチンウクライナ侵略ばかり書いていたせいもあって紹介が後回しになったままだ。遅ればせながら著書2冊の紹介を。

 上記中川さんの編著本(松籟社、2600円+税)は「方法としての外地巡礼」という副題を付されていて、冒頭対談と9本の論文が収録されている。論文筆者は西成彦さん以外は未知の人ながら、論の対象が目取真俊や啄木などは馴染みやすいけれど、朝鮮や台湾の作品や筆者のものは個人的には腰が引けてしまう。それでも中川さんと西さんの長い対談は楽しめたし、とても刺激を受けたネ。しかし読んだ時はいろいろ書きたいことが浮かんだのだけど、今は忘れてしまったネ。でも「旅する」優れたインテリであるお2人が編集した日本・朝鮮・台湾に関する論文から刺激されたい人には、打ってつけの本だからおススメしたいネ。

 ついでながらあまり関心のある人はいないだろうけれど、上記のような論集も贈っていただいたので紹介しておきたい。この本(広島大学出版会、3400円+税)も副題の「〈帝国〉日本・女性・メディア」という観点から、『台湾愛国婦人』という雑誌を9人の人が論じている。中には上田正行・田中励儀さんという実績の研究者も含まれているし、編著者の下岡・柳瀬両氏は(釣り部の仲間は味を占めているマツタケを送ってくれる)樫原修先生が育てた研究者だヨ。下岡さんは台湾文学研究では日本を代表する人だし、柳瀬さんはレベルの高い三島由紀夫研究その他で高く評価されている人だヨ。

 

 中丸さんが刊行した著書(翰林書房、3400円+税)は「自然主義小説の生成」という副題のとおりで、花袋・藤村・秋声の作品が論じられている。自然主義というと今どきの人は距離を感じるだろうけど、中丸さんは師・前田愛の薫陶を受けているので論の切り口が旧来の研究者とは異なる斬新な論じ方をしているから、今どきの人にも楽しめるし・教えられることも多いはずだ。中丸さんは大学院では三好行雄にも鍛えられているから、論の緻密さも緩みなく説得的だ。

 個人的には自然主義というと白鳥や終声は好きで読んできたけど(花袋は少々)、藤村は学生時代から肌が合わないので「破戒」くらいしか読めないままで、だから三好行雄師の藤村論も(授業もつまらいと師匠に直接伝えたし)正直ほとんど読んでないのだネ。でも中丸さんの藤村論なら読んでみたいと考えているヨ、出版に際して背中を押したという縁もあるしネ。