【読む】中島国彦『森鷗外』(岩波新書)

 チョッと前に日高昭二さんの大著『重ね書きする/される彼ら』(翰林書房)という大正文学論を頂戴して圧倒されながらも、少しは読んでから感想を記そうと思っているところへ、中島国彦さんの岩波新書森鷗外 学芸の散歩者』(880円+税)をいただいた。こちらは新書なのですぐに感想が書けそうなので先にすることにした。

 鴎外は三好行雄師が学部の時に演習のテキスト(筑摩版全集)に指定されてチョとウンザリしていたのに、大学院に進学してもまた鷗外がテキストだったので生涯忘れられない文学者となった。上の世代が院生の時は漱石だったそうで、羨ましかったものだ。大学の教員は概して身勝手な者が多いので、自身が現在研究している(原稿を依頼されている)作家をテキストに選びがちだから学生が迷惑をこうむることになるのだネ。三好師は当時鷗外を主たる研究対象にしていたので、ボク等は光栄にも(?)付き合わされたわけだヨ。

 というわけで鷗外については一通り知っているので、宇都宮大学の頃は2年ほどかけて鷗外(の生涯と文学)を中心に文学史の授業をしゃべったことがあったネ。1年単位の授業だったから、それぞれ鷗外の半分しか知らない学生を作ったわけだネ。大学教員の身勝手をマネた結果となったしだい。いただいたのは岩波新書のシリーズのせいか(?)、難しいことや研究として新見が披露されているわけではないから既視感の連続なので、ななめ読みで済ませてもらった。岩波新書の文学者シリーズは啓蒙的なものなのだろうから(太宰治などもそういう印象だったネ)、その点では最高級の新書として自信をもっておススメできる。鷗外について肝心なことは洩らさず叙されているので感心するばかり。

 中島国彦さんと言えば漱石について専門的ながらもなじみやすい書を複数出版しているので、研究者のレベルが知りたければ漱石本を読めば楽しみながら勉強できるけど、この鷗外新書に専門性を要求するのは無理だろネ。学生の頃にはたくさんの鷗外評論・研究書をそろえたけど、山崎正和『鷗外 闘う家長』(新潮文庫?)が、鷗外の全体像を実に面白く読ませてくれたし、柄谷行人「歴史と自然」(『意味という病』講談社文芸文庫?に所収)を読んだら鷗外の歴史小説についての評論を、前代未聞のレベルで楽しめて感動したネ。その後この2書に相当する鷗外論が出ているのか無知だけど、たぶん無いだろネ。もちろん小林幸夫さんや須田喜代次さんの研究書はハイレベルで充実しているけど、専門的に過ぎるのでここでおススメするものではないだろう。

 とにかく自分が鷗外について無知だと思ったら、すぐに中島さんの新書をゲットして読むとイイ。