【読む】『卒論マニュアル 日本近代文学編』(斎藤理生・松本和也・山田夏樹などの編著)

 松本和也・山田夏樹・吉田恵理という3人の親しい執筆者(立大博士に限ったわけではない)が担当している章を全部読んでから紹介しようと思っていたら、読書の秋のせいか続けて著書を贈っていただいているので急ぎ感想を記すことにしたヨ。

 卒論のマニュアルなんて何と魅力的な本が出たものだ、それも編者はじめ十数名の実力者が執筆しているのだから、そして1700円+税という安価なのだから驚きだ。歴史に残る名著・中村三春『フィクションの機構』以来ハイレベルの研究書を出しているひつじ書房のイメージを裏切るような、コンビニエントな本ではありながらも充実しているので、卒論に関係ない学生のみならず一般の文学好きな読者にも勧められるネ。

 それにしても小説研究にも実力を発揮している3人が、それぞれ演劇・マンガ・詩歌の得意分野の研究業績を背景にして、分野・ジャンル別の卒論マニュアルを書いているのだからレベルの高さは保証できるというもの。ボクはマンガについても全くのシロウトなのに、本書ではジャンル別にアニメもゲームも映画その他についてもそれぞれ詳しい研究者が執筆しているのだから浦島イチローになった気分だネ。逆に言えば現代の卒論執筆者にとっては、これ以上望めない便利で充実したマニュアル本だということだ!

 

 詩歌の卒論は多くないながらも、本書では中原中也の専門家である吉田さんが中也の作品を引きながら解説してくれているから万全かつ楽しく読めるヨ。気になるのは演劇研究でも実績のある松本さんが演劇のジャンルを担当しているものの、戯曲についてはほとんど言及が無い点だネ。そもそも演劇を卒論に選ぶのは無理と断言できるほどタイヘンなのは松本さんの解説のとおりなので、比較的には簡単な戯曲についての卒論案内が別立てされてないのは心配だネ。ボクの『シドク』はⅠでもⅡでも戯曲論は太宰や三島作品で論じているけど、演劇論を書くには舞台を意識しなくてはならないのでボクには無理なのだネ。だからⅠに収録されている岡本綺堂論でも、初出題は「試読・岡本綺堂の戯曲」だった次第だヨ。

 舞台を見ながら研究している松本さんは演劇しか眼中にないようだけど、そもそも学部生が舞台を意識した演劇論として卒論を書くのは無理じゃないかな? 立教大教員の石川巧さんの近著『読む戯曲(レーゼドラマ)の読み方』(ブログで紹介済み)も文字どおり「読む」「戯曲」としての論集だしネ。ボクの戯曲論もそうだけど、舞台を意識せずに「読む」テクストとして論じることしか卒論では書けないだろネ。

 

 3人が別の章で担当しているテーマを列記しておこう。それぞれ書きながら恥ずかしそうな表情をしていた想像が浮かぶけど、それほど初心者にも理解できるようにハードルを下げて書いているということだから、とっても役に立つマニュアル本だヨ!

 Ⅰの第二章 問題解決のためのアプローチを考えよう

 Ⅱの第四章 近現代文学の卒論テーマ=問いを再設定しよう

 Ⅲの第七章 近現代文学論文の書き方のルールを確認しよう

 笑えたのはⅣの⑥の表題が「ワンランク上の卒業論文へ」だということ。ボクの『シドクⅡ』の帯には「ワンランク上の読書を」と記してあるからだネ。ボクの場合は「ワン」どころか「スリー」くらい上過ぎたようで、読者には無理な注文だったようだ。でも本書は読んだ人には読まない人より「ワンランク」上の卒論が書けるのは間違いないネ!