【読む】松本和也『太宰治の小説表現』は一家に一冊!

 表題の本がパブリック・ブレイん社から出た(1200円+税)という安価なのは110ページほどの薄さだからだけど、太宰ではトップクラスの松本氏が4作品を厳選した上で、持ち前の緻密さで「小説表現」に限定して論じているので絶対おススメだヨ! たくさんの太宰論を出した松本氏がまだ書くことがあったのかと思うだろうけど、「はじめに」の最初から

 《できることなら、小説表現の工夫や仕掛けを読み解いて、そのことで小説表現がもつポテンシャルを存分に味わいたい》

と断言しているとおりの貴重な観点から論じているのだネ。ボクの『シドクⅡ』の前書きでも同様の視点から文学作品に臨んでもらいたい旨のことを記したので、テクストを細部まで読み解ける松本さんの宣言に強く共感したのだネ。松本さんは太宰研究を終えて「文学場」(フツーで言う文学史)の研究に専念しているのかと思いきや、改めてこうした啓蒙的かつ大事な太宰論を書き上げたのだからありがたい限り!

 選ばれた4作品は「千代女」「カチカチ山」「女の決闘」「春の盗賊」で、どれも読解の難しいものばかりだから松本論を導きに自分でチャレンジするとテクストを読む楽しみが倍増するヨ。「千代女」は昔ご存じ千田洋幸先生が『国文学』に好論を発表したし、「春の盗賊」は釣り部の諸君ご存じのマツタケを送ってくれる樫原修先生が昔『日本近代文学』で読み解いた作品だし、「女の決闘」などは故人となられた曽根博義亀井秀雄という歴史に残る優れた研究者が論じた作品だ。有名な作品そろいだから未読のままでは恥ずかしいし、自分だけでは読み解き難いテクストを松本論を参考に味読してもらいたいネ!