滝口明祥の井伏論

教科書の編集が終ったあと、書評の依頼原稿も2本ともに書きあがったので、実に久しぶりに解放されている。
いちおう週末には研究会(学会)に出席するので、そのための準備(読書)もあるけれど、この1年半超続いた迫られている感じが無いのは爽快だ。
というので大げさに言うと数年間読めずに心苦しい思いをしていた、少なからぬ贈られた著書に目を通し始めている。
その1冊、大好きな井伏鱒二の論を拝読した(彩流社・3800円でこの充実した内容だからリーズナブルな定価)。
滝口明祥という若手の人の著書で、3年前に贈られて目次を見てワクワクしたものだ。
「朽助のゐる谷間」を始め好きな井伏作品がラインアップされていて、すぐにも読みたい本だった。
しかし退職前の準備やらがあるので、1本だけ読んでから礼状をと思ったけれど、いつものパターンで読み切れないまま放置せざるをえなかったもの。
今度その「黒い雨」論を改めて最初から読んだら、期待以上の優れモノの論だったので大満足、井伏好きな皆さんにもぜひおススメしたい。
ゼッタイに損はしないし、とっても勉強になると保証できる。
こんなにあるのかと驚くほどの先行論を正確に吸収した上で、実に冷静沈着にテクスト分析を進めるので安心して楽しめた。
『シドク』で書きたいことは書いてしまった井伏は、今後は論じるのではなく読んで楽しむ対象なので、その論も気軽に読めるのが嬉しい。
論をまとめなくてはならない安吾だとこうは行かない。
日曜の安吾研では「吹雪物語」への言及があるというので、これも5分の1ほど読んだまま数年間放置してあった作品に再チャレンジしたものの、相変わらず素人並みの下手さ加減でツマラナくてツライ。
悪評ばかりなのは知っていたけれど、これほどヒドイとは思わなかった。
安吾自体はモノスゴク面白いのに、こんな長すぎる駄作を残したお蔭で躓かされているのがツライ。
読みたい安吾作品はたくさんあるのに、この駄作のハードルが高すぎる!