デビッド・リンチ  「忘れてしまいたいこと」

朝日に毎日連載されている鷲田清一さんの「折々のことば」は最近苦戦しているようで、あまり心に残らないもの続きの印象だ(残っているものは近いうちに紹介する予定)。
その代わりというわけではないけれど、楽しく読んでいる北方謙三の連載「語る――人生の贈りもの」の第13回にデビッド・リンチの素敵な言葉が紹介されていたので書き止めておきたい。
映画はあまり観ていられないのでリンチも名前しか知らないけど、「ストレイト・ストーリー」という映画の主人公の老人が若者に語る言葉が、北方謙三の言うとおり《胸に迫りましたね》。
 「年をとっていいことはあるかい」
 「細かいことを気にしなくなる」
 「じゃあ最悪なことは?」
 「若い頃のことを覚えていることだ」

若い仲間には通じないかもしれないけれど、先日会った学生時代のジジイ仲間なら共感措くあたわざる名言だと感じ入ることだろう(ちなみに北方はボク等より1つか2つ年上の全共闘)。
もちろん先日は楽しい昔話しで盛り上がったに違いないけれど、語れずに胸の中に止めておくしかない「若い頃のこと」を各自が秘めているに違いない。
唱歌「酒と男と涙と女」(河島英伍)も「忘れてしまいたいことや〜」と始まっている。
個人的には学生時代から遡るほど、忘れたいことが記憶から消せずに沈んでいる。
だから高校まで住んでいた前橋時代の記憶には、思い出すと(ゾッとするような)タマラナイものがたくさん潜んでいる。
中には周囲からは誇らしく見えても、己の心中では恥ずかしくてしかたないものも少なくない。
いずれにしろ若い仲間に洩らして「生きる勇気」の元にしてもらえれば、とも考えてみたりする、気取ったりオツに済ましていたくないから。
とはいえ自分の《自虐》表現が、井伏や太宰の域には遠く及ばないという自覚も一方である。
はてさてどうしたものやら・・・