町田康はゼッタイ面白い

 この女子トリオで町田康か、という心配のとおりのレジュメと議論展開でしたが、レジュメが問題提起に満ちていたので私の言う「レポいじめ」で盛り上がりました。ちょうど「日本文学概論」で講義していたところながら、<人間は物語から逃れられない>という好例のようなレジュメで「くっすん大黒」を<ビルドゥングスロマン(成長物語)>として読み、皆に叩かれていました。<物語内容>ばかりを読んできた結果、町田康を扱いながら<文体>が論の対象として設定されない物足りなさはイタダケません。もちろんレポだけの落ち度ではなく、ジュネットの言う<物語行為(ナラシオン)>をあまり問題視してこなかった歴史の積み重ねの結果でもあります。小説家の中野孝次町田康をまったく理解できなかったように、文壇でも町田は理解しにくいムズカシイ作家です。それでもガンバッたレポと司会者の姿、中でも一年生の名取サンが評価されていたのが印象的でした。
 感想の時に言い忘れましたが、語り手の楠木がなぜ島根県全図を持っているのか不明でしたが、「大黒」が出雲(島根県)の建国神話の「大国主の尊(みこと)」に繋がり、議論でも指摘があったとおり楠木正行(まさゆき)の名が尊皇精神を具現した楠木正行(まさつら)を思わせるところを見ると、このテクストは天皇制までも茶化しているものと読めてきて一人興奮しました。
 マチダは面白い、でも難しい。