カズオ・イシグロの受賞に納得  中江有里  ハルキストの害悪

気晴らしにテレビを点けると小池百合子安倍晋三のツラや声を強いられて気分が落ち込みそうなところに、実に清新な話題が届いて気が晴れた。
受賞したのがハルキじゃなくてイシグロだというのも、さらに気持イイ感じ。
(でも既に受賞していたのじゃなかったかナ? イギリス人として、とも思ったのは一昨年来日したせいか。)
ハルキを論じている評論家を尻目に、清新なイメージの読書家(エッセイスト)・中江有里さんが受賞を予想していた(?)というのも気持良かったナ(最新の著書でイシグロを取り上げているとのこと)。
ハルキよりイシグロの方が本物という感じがするもンね。
「わたしを離さないで」が日本でも50万部も売れたというのに、イシグロの受賞が下馬評にも上らなかったというのは、日本の読書界・書評家のレベルの低さを表しているのだろうナ。
文芸評論家を称するヤカラは、中江さんを見習わなければいけないネ。

明日から釣り部で2日ほど留守になるので、その準備もあって余裕のないところながら、この清新な話題について急ぎ書きとめて気持良く出掛けたい。
中公文庫にカズオ・イシグロの「日の名残り」というのがあって、昔から古書店で見かける度に買う買わないで迷っていた。
ブッカー賞受賞したというのだから大したものらしいという程度だったけど、テレビで映画を見ても内容が渋くて何が良いのか分からなかった。
最近では「わたしを離さないで」というのもテレビで見かけた覚えがあり、臓器移植のためだけに育てられているクローン少年少女というぶっ飛んだ話だったので、ずいぶん守備範囲の作家だと思った程度。
しかし何かで「日の名残り」はイギリス文学の流れに掉さした見事な達成だと聞いて、それなら読んでみたいと考え直したものだった。
さらに今回の受賞を機にメディアで紹介される作品を知ったら、イシグロ作品を全部読みたくなってきた。
ハルキの「色彩をもたない〜」は5年経って100円で買えたものの、全然読む気にならないのと対照的だネ。
でもイシグロを読む順番は今度の受賞でずっと後回しになりそうだナ、ほとぼりが冷めるまで待たなくっちゃその気にならないから。

朝日の記事にスウェーデン・アカデミーのダニウス事務局長の発言が紹介されている。
 《ジェーン・オースティンフランツ・カフカをまぜるとカズオ・イシグロになる。そこにマルセル・プルーストを少し加えなければいけない。》
(「高慢と偏見」を途中で放置したままの身ながら)オースティンという名を出されると、作品世界のイメージの類似からだけでもイギリス文学の歴史を踏まえているというのが分かりやすく、映像では伝わらない文章・文体の力を十分に具えた作家なのだと思われる。
クローン人間製造の話はカフカにつながる印象ながら、相互に影響し合っているというハルキの作品に近い感じかな。
でも同じ非リアリズムの作品でも、テーマの重さ・深さではハルキは遠く及ばない印象だ。
ハルキの表現している世界が個人的過ぎたり、現実世界の問題から離れ過ぎるのという限界が、イシグロの「わたしを離さないで」と比べると分かりやすい。
もちろんイギリスのEU離脱を批判したというイシグロの真似をしろということではない、イシグロの現実世界に対する言動と創作活動は別次元のことだから。
イシグロ作品の問題提起に比べるとハルキの小説はやはり軽過ぎる印象で、そのためにエンターテイメント的に広く読まれるのが受賞に至らない主因なのかな。
去年受賞したボブ・ディランが決してエンターテイメントじゃないことは、その節のブログに記した通り。
歴史的に見ても受賞した文学には、エンターテイメント性が前景化したものは記憶に無いよナ。
何といっても、ノーベル賞の季節になるとバカ面して集まるハルキストなる軽薄な連中が、ハルキのエンターテイメント性を必要以上に強調しているようで逆効果だろうと案じられる。
この調子じゃハルキは生涯ノーベル賞を獲れないのではないかと危惧される。