村上春樹「騎士団長殺し」  小野正嗣

ハルキ作品は5年経ってホトボリが冷めてから読むことにしているので(と言いながらも「色彩をもたない〜」は105円で買ったまままだ読んでない)、最新作はしばらくの間手にすることもない。
発売と同時に読みたがる同調圧力には嫌悪感のみ、バカじゃない?! といった心境。
やはりハルキは(読みものであって)古井由吉のような《純文学》とは異なるのだネ。
又吉の「花火」も第二作もたぶん一生読まないだろうけど、又吉が古井を評価している点では好感を持っている(芸人としてはデビュー当時から支持している)。
ともあれここでハルキの新作に触れるのは、彼の文学性について見事な見解を読んだからだ。
小野正嗣さんの評なのだけれど、この人は芥川賞作家であり立教大の教員という2つの顔を持っているのだけれど二重に面白い。
1つは放送大学で「世界文学への招待」の主任講師をしていて様々な国・民族の文学を、それぞれの専門家を呼んできた解説させている。
小説はまだ読んだことがないけれど、文学研究では面白い(興味深い)ことをやっているので注目している。
以前ゲストが勧める名作について林修と対談する番組があり、小野さんがマルケス百年の孤独」を取り上げて解説してくれたのを見たけど、とても分かりやすくてタメになったものだ。
もう1つの面白さは、小野さんが巧まずして笑わせてくれる点だ。
これなら授業を聴いていても飽きないだろうという感じ。
芥川賞受賞作「九年前の祈り」は生まれ育った奄美(?)が舞台だったと記憶するけれど、読む機会が訪れるのはいつかな・・・

肝心の春樹論を記し忘れるところだった。
朝日新聞3月8日の特集記事で、もう1人のロバート・キャンベルさんのは新味の無いツマラナイ感想だったけれど、小野さんの評は切れ味抜群で極めて面白かった。
《作中では、人物の乗る車の車種や特徴がていねいに描かれるが、(略)ハルキ・ムラカミという車の最新モデルを手にしているような気になる。(略)乗り心地・読み心地は最高だ。
 でもこれでは自動運転では? 村上春樹を大いなる喜びとともに忠実に愛読してきた僕のような読者は、ハルキがいわばまだマニュアルで、読むことに思想や集中力を強いられ、全身で作品世界に没頭できた頃をつい懐かしんでしまう。》
(ただのハルキ・ファンには通じないだろうけど)誰にでも訪れるマンネリを指摘して鋭い、全文を読むことをおススメしたい。