【読む】『文豪たちの東京』  小林幸夫

 「ビジュアル資料でたどる」という冠語が付された『文豪たちの東京』(日本近代文学館・編、勉誠社・2800円)という本を、小林幸夫さんから贈られた。小林さんが千駄木・団子坂を担当して、鷗外・光太郎・杢太郎について執筆しているからだネ。「ビジュアル資料」が強調されているとおり、古地図や写真・挿絵などがたくさん散りばめられて楽しい本だけど、小林さんは実に丁寧に書く作家・作品を解説していて、時おり教えてもらえる記述もあって一般読者のみならず、研究者も具えておくことをおススメしたいネ。

 高村光太郎が千恵子と共に団子坂辺りに住んでいて、セックスばかりしていたという記述が室生犀星「我が愛する詩人の伝記」だったかにあり、若かったボクはリアリティを感じたものだけど、光太郎が近くの鷗外の観潮楼へ弁明のために走った、という想像場面から解説が始まる(サッチャン書き方上手いネ)。光太郎がどんな失言(?)を弁明するために鷗外の住まいへ急いだのかは、本書で楽しんでもらいたい。

 鷗外が地元意識を抱いた団子坂の、有名だった菊人形については「浮雲」から始めてからお約束の「三四郎」に言及する。各作品からの引用に丁寧な注釈を付しながらのためになる解説なのは、団子坂の道幅が約2、7メートルだったという記載もあるほどのありがたさからも分かるだろう。菊人形についても、1ページを費やして植木屋の名前や木戸銭(入場料)まで調べて教えてくれている、学生時代にこんな本があればと悔やまれる行き届いた本だ。

 スッカリ露出することが無くなった池内輝雄さんが、「はじめに」とお住まいの軽井沢を担当しておられるのが嬉しかったネ。この手の漱石本を出された中島国彦さんが、漱石作品を「山の手」と「下町」の視点から解説して企画を充実させている。総勢9名の研究者が各専門性を生かして解説してくれているのだから、楽しまない手はない、読みなさい!