【読む】荒井裕樹『まとまらない言葉を生きる』

 学大から東大へ進学して博士号を取得した荒井裕樹さん(二松学舎大准教授)の業績本は、一度ならずブログで紹介したけれど、今度は論文集ではなくエッセイを柏書房から出版して話題になっているそうだ。朝日新聞の10月13日(夕刊)に見覚えがある顔だと思っていたら荒井さんだったのでアレ? と思ったら本人の写真で本の紹介だった。荒井さんはハンセン病患者や障害者たちの文学表現を中心に研究している稀少な研究者だけど、本書は

 《長年関わってきた人との語らい、心に響いた本の一節、日常の出来事を手がかりに、自分の中の「もやもやした思い」を書いていった。》ということだそうだ。

 荒井さんといえば、ボクが学大赴任以来ではトップ・クラスの優秀な学生ながら、ボクの小林秀雄についての講義で北条民雄いのちの初夜」に出会ってしまい、それ以来文学研究の本道から逸れた分野に突き進んだ人。本道の研究ではないこともあるけれど、主に論文(活字)になる前の原稿を指導しているボクには、荒井さんの著書を読みこむ時間がない。最初から出来上がった書き手なので(その点では山田夏樹さんと同じ)、原稿を指導したこともない(その点では山田さんとは別)。だから最初から数冊は著書を贈られたものの、「出来上がった本は、指導しようがないので読んでないヨ」と伝えたら残念そうな表情をしていたけれど、その後は本が送られてこなくなった。だから今度の本も読んではいないけど、荒井さんの書いたものなら絶対タメになることは保証する。

 地味な内容ながら3刷8千部も売れているそうで、個人経営の書店が熱心に発信したお蔭だという。ボクの最初の本、『小林秀雄への私的試み 〈関係〉の飢えをめぐって』も洋々社社長だった梅田鉄夫さんが書店を回って売り込んでくれたお蔭で、3ケ月くらいで黒字になったとか。荒井さんも人柄と実力から良き理解者を得たようで何よりだけど、皆さんにはさかのぼって今まで出した研究書も読んでもらいたいネ。