【読む】『昭和史講義 戦後文化篇(上)』  牧野悠  剣豪小説(五味康祐と柴田錬三郎)  新保祐司の小林秀雄像

 以前『大正史講義【文化篇】』(ちくま新書)を紹介したのを覚えていてくれるかな? 牧野悠さんと竹田志保さんが、それぞれ時代小説・時代劇と少女文化の項目を担当していて、まるで無知なボクにたくさんのことを教えてくれたのを忘れない。中でも講談本の「立川文庫」は「たつかわ」と読むのだと知って驚いたネ。

 今度は昭和文化篇(1000円+税で分厚いのに安い!)を牧野さんが贈ってくれ、彼は「時代小説の再興」という章題で五味康祐とシバレン(柴田錬三郎)を担当していて読ませる。「読ませる」というのは決してお世辞ではなく、2人の剣豪小説についてゼロから教えてもらったヨ。この2人は作家までの人生もハンパナくて、それも十分にオモシロい。五味が「喪神」という作品で芥川賞をとったのは知っているけど、作品を読む気になったことはないもののこれがまさかの剣豪小説だったとはネ。評価は2分したものの安吾佐藤春夫が剣術の「表現力」だったというの興味深い。

 「表現力」が評価されたというのだから芥川賞だというのは納得ながら、2人の作品にはニヒリズムが現れているというのもとても興味深いネ。しかし五味の「柳生連也齋」の一節を引きながら、縄田一男という人が伊東静雄の表現に重なるとする説を牧野さんが同意しているのはアブナイね。少なくとも引用されている箇所だけでは、恣意的な重ね合せとしか思えないからネ。大衆小説研究者は純文学に対する未練が絶ち切れずに、つい純文学と重ねたがるのかナ? 牧野さんにはマネして欲しくないネ。

 

 この書には小林秀雄についても1章が当てられて新保祐司さんが書いているけれど、ほぼ新味が無いのは想定どおりの上にクザーヌスを引き合いに出しながら、マジナイのように「神」をくり返す切り口はクリスチャンによる文学批評・研究のパターンから抜け切れていないのでツマラナイ。最終章(全20章)は「全共闘運動――課題と遺産」で山本明宏という若い人が担当しているけど、当事者のボク等が読むとウサン臭さを感じてしまいそうだからペンディングにしたままだ。でも皆さんにはその歴史を知るための参考にはなると思うヨ。

 目次に出ている文学者・知識人の名前を列挙すれば、丸山真男橋川文三鶴見俊輔福田恒存林房雄三島由紀夫石原慎太郎松本清張岡本太郎等々とたくさん出ているから、楽しみながら社会史・文学史の勉強になると思うのでおススメ!