いつもながら日本モダニズム研究という貴重なことをやっている杉本ユウキ君のお蔭で、初めて読む作家との出会いが楽しめる。
アテになる人なので、手許にありながら読みそうもない『吉行エイスケ作品集』とかいう本を上げ、研究に使ってもらうようにしたこともある。
海野十三はユースケ・ハマダマニア(浜田雄介)あたりから名前を聞いたかもしれない程度だったけど、気付いたら自家に『海野十三戦争小説傑作集』(中公文庫)があり、よく見たら2作品の冒頭部分だけ読んだ形跡があるものの、全く記憶にない。
戦争小説には強い関心があるものの、チョッと読んでみたけど作風が肌に合わなくて挫折したのかも。
今回は「十八時の音楽浴」という、何とも奇異な表題の作品でSFの部類とのこと。
作品はやはりバカバカしさが先だってしまったが、発表の方は相変わらず種々教えられて面白かった。
こんな作品をよくも論じられるものだ、ユースケもそうだけど。
前段階として、チャップリンの映画「モダンタイムス」・ハクスリー「すばらしい新世界」・オーウェル「1984」・ザミャーチン「われら」などとのつながりが指摘されるところで、不案内ボクとしては感心するばかり。
「われら」は学生時代にチョッと話題になった記憶はあるものの、読もうともしなかったナ。
人造人間の話題は既に山田夏樹さんの『ロボットと〈人間〉』や『石ノ森章太郎論』などで免疫ができているものの、杉本クンの知識はさらに付け加えてくれるものも少なくない。
作者の海野が理系出身だからのようだけれど、参考文献も含めて科学的知識や探偵小説については己の無知を暴かれるばかりで、却って痛快なくらい。
探偵小説や推理小説には全然興味のない身ながらも、ユースケが研究の範を示し続けてきた成果か、その後の世代にこの種の研究者が現れてきて、その1人が目の前で喜々として楽しんで研究している姿を見るのは嬉しいかぎり。
ただ授業時に感想を述べたとおり、テクストをどう読むかが不十分なのが今後の課題。
登場人物の名前をめぐっては、志賀直哉「赤西蠣太」のように命名の意味を木島クンなどからもヒントを得ていたけれど、アサリは特に位置付けが難しそう。
後半の目まぐるしいほどの権力奪取の転換など、けっこう面白い展開が読ませるし、散りばめられているアフォリスム(警句)などから作家のインテリジェンスの高さが伝わってくるけれど、海野十三を自分から読もうとい気は起らないナ。