花鳥社  鼎書房

木村陽子さんの安部公房論を出してもらった笠間書院だったけど、編集を支えていた橋本孝さんや重光徹さん達が辞めていたとは半年ほど前までは知らなかった。

木村さんの本造りは橋本さんのアイデアが生かされたせいか、間もなく2刷りが出たほど売れるという近年文学研究書ではありえない売れ行きだった。

木村さんに言わせると、ちょうど公房の愛人だった山口果林の全裸写真が口絵の回想本が出回ったので、それと混同した人が買ったとの説明だけど(冗談だろネ)、公房論にしては珍しくテクストを精緻に読みこんだ論が並んでいることも売りになったはずだ。

和文学会の会務委員長を務めていた十数年も前の頃、学会で笠間の部屋を借りていたので出入りすることが多かったため、社員が集まっているところで「こんな売れそうもない本造りをやっていてはダメだね」と遠慮なくケチを付けていたものだった。

その後に疋田雅昭の中也論や藤井貴志の龍之介論のようなステキな装丁本(中身はむろん一流)を出すにあたって見直したものだったけど、木村陽子の公房論の装丁はさらに安価な装丁で定価も2000円を切っていたのでとてもビックリした。

ボクの今までの2冊を出してくれた洋々社が、もう新本が出せないというので3冊目は笠間に頼もうと考えていたのに、肝心の橋本さんがいなくなった上に笠間の方針が変り(社長も代り)、文学研究とは無縁な出版社に様変わりしてダメになってしまった。

洋々社の頃から大きさも厚さも大部の書には拒絶反応が強かったので、過去の2冊と同様の小粒ながら中身が輝く(できれば安価な)本にしたいという希望をかなえてくれそうな、鼎書房(チョッとダジャレ)に3冊目を出してもらうことになった。

ガラにもなく会務委員長を引き受けざるをえなかったのは、松本徹さん達が編集していた三島由紀夫論のアンソロジーで「絹と明察」を引き受けておきながら、後で作品を読んだら全く興味が湧かないのでお断りするという仁義に反することを為したのが原因だ。

和文学会の代表幹事だった松本さんたちが会務委員長の人選に行き詰まり、ボクに電話で「あなたには貸しがあるような気がする」と言ってきたので、逃げることができなかったという次第だった。

 

さて笠間から出た橋本さん達は、花鳥社という出版社を立ち上げたという情報が入った時には、何となく3冊目は笠間でという話がありながらも鼎に頼んでしまったので、申し訳ない気がしないでもなかった。

でも花鳥社は古典専門という方針らしかったので、不義理をせずに済んだ。

専門外なので全く力になれないけれど、古典専門の研究者には花鳥社に協力してもらえるとありがたいネ。