【観る】小早川秋聲の戦争画「国の楯」 向井潤吉  藤田嗣治

 オンデマンドというのかな、放映され終ったテレビ番組が後でも見ることができるというシステムね。特定の番組に限られるようだけど、先週の金曜だったかのBSNHK「プレミアム・カフェ」で戦争画の再放送(数年前のもの)を取り上げていたのだけど、それがオンデマンドで見ることができたらおススメだネ。戦争画とくれば藤田嗣治が有名だけど(「アッツ島玉砕」など)、今回は小早川秋聲という画家だった。初耳のような、それにしては取り上げられた「国の楯」(数回題を変えられた)は見た覚えがあるような(初回放送時にチラ見したのかな?)という作品。絵自体も素晴らしいけど、軍発注でいながら受け取りを拒否されたり、少々書き直して名前を変えたりしても最終的には拒絶されたままだったという、いわく付きのもの。絵画は言葉じゃ伝わらないから検索して見てもらいたいけど、素晴らしい作品だヨ。

 番組では高畑勲というアニメーターが、書き直されるプロセスを追っていくのも面白い。ミケランジェロの「最後の審判」などが有名だけど、汚れやニスを除いていくと原画や書き加えがハッキリしていくものだ。「国の楯」にしても、背景に桜花が書き加えられたり消されたりしたことが明らかにされていくので、とても興味深い。戦死した将校の顔を覆っている日章旗に、後で白地に送り出す人々の名前が書き加えられ行くのも面白い。

 ともあれ初回放送の時はチョッと見ただけだったのか、今回ジックリ見たら見入ってしまったくらいの感銘だったから見る価値あり。自家にある説明付きの画集『画家たちの「戦争」』(新潮社、2010年)を取り出して見たら、10人以上取り上げている画家の2番目が小早川だったので(1番目はやはり藤田)、改めて己のボケを実感させられたネ。すぐに忘れてしまうので、覚えていられないのだナ、これだけ優れた画家・作品なのに。

 「国の楯」は小早川の中でも傑作だけど、他に座ったまま日本刀を抜いた将校の姿を描いた「日本刀」という作品や、出陣の前に紅茶をたてる軍服姿の将校の平和な姿を描いた「出陣の前」というものもある。特徴的なのは、小早川の作品には戦闘場面や結果としての血が見られないことだネ。藤田その他の戦争画とは正反対なので驚いたけど(藤田たちが悪いと言うわけではない)、敗戦後は東条英機たちと同様に自分も戦犯として逮捕される覚悟をしていたそうだ(結局免れた)。

 本書には河田明久という研究者が「戦争美術とその時代 1931~1977」という解説文を書いているので読んでいるところだけど、未知のことばかりの記述なのでとても教えられる。松本和也さんや五味渕典嗣さんの戦争文学についての記述を思い合せながら、ワクワクして読んでいるヨ。個人的に面白かったのは、好きな画家の1人である向井潤吉(民家ばかり描いた画家)が個人の資格で従軍して経費は全て自弁だったという記述ネ。初耳だったので、後で向井の画集を取り出して解説文を読んでみようと思ったヨ。戦争画としては1枚だけ収録されていて、蘇州の民家が密集している所を空爆する日本の飛行機の大きな影が覆っているという「影」という作品(昭和13年)。向井の民家画は芸術として認めない人も少なくないかもしれないけれど、この「影」はいかにも絵になっていて向井としては珍しい。

 そういえば、日本画家の川端龍子(りゅうし)が飛行機の飛ぶ姿全体を操縦士も含めて描いた「香炉峰」(昭和14年)という作品も収録されていて、以前「日曜美術館」で見た時に驚いたこともあったっけ。向井潤吉と同じく、ふだん描いているものと戦争画との落差を感じさせて興味深い。フランスから帰国してたくさんの戦闘場面を描いた藤田嗣治が、敗戦後に画家たちから率先して戦争責任をとるように頼まれたので、呆れて日本を捨ててフランス国籍をとってレオナード・フジタになったことも考え合わされ興味が尽きない、この辺で。