【読む】『学芸国語国文学』第54号  ナオさんの論文掲載!  千田洋幸・疋田雅昭・川上千里の研究書に対する書評

 学芸大国語国文学会の機関誌『学芸国語国文学』の最新号が届いた。学会の名前のとおり学大の学生や卒業生なら誰でも入会でき、論文を投稿できる機関誌だ。大学院を修了した人で届いてない人は自分たちの学会を支えてない(会費を払ってない)ことを反省して、すぐに会費の納入をしてもらいたいものだ。どこの大学の学会でも、修了生が中心となって機関誌の発行を支えているのだからネ。金額と支払法は(学会誌の奥付によれば)、042-329-7249に聞けば分かると思う。

 

 今度の号にはナオ(近藤直子)さんの論文が載っているので、ナオさんを知る人は学会員になって本号をゲットし(会員にならなくても買えるけど)、記念に保存しつつ自らの知的刺激に役立てて欲しいネ。そもそもナオさんは学大卒業生ではないのに、単位履修生を機縁に国語科の授業やボクが主催するヒグラシゼミに参加して研究能力を高めたことが認められ、特別措置で学会入会を許可された人だ(何とボクと同世代!)。掲載された論はヒグラシゼミで発表した平野啓一郎「Re:依田氏からの依頼」を論文化したもので、原稿の段階から読ませてもらったけれど、書き直すたびに論が精密になり説得力を持つようになったのは驚くばかりだった。今までもヒグラシゼミの発表が『学芸国語国文学』に掲載された例は、オキヌちゃんやサトマン君などがいるので、他の人もこれからは積極的に発表したり・論文投稿をしてもらいたいネ。

 本号には伊藤かおり先生が専門の漱石論(「明暗」論)を発表しているだけでなく、書評欄には千田洋幸・疋田雅昭両先生の著書に対する読み甲斐のある評が載っている。ヒッキー先生の近著『トランス・モダン・リテラシー』についてはナッキー山田(夏樹)クンが書いていて適材適所、本書の優れたところをわかりやすく説いてくれる一方、歯に衣を着せながら(?)ツッコミも入れている感じで楽しめる。

 千田先生の『読むという抗い 小説論の射程』に対しては、千田先生の旧友らしい研究者・中山弘明という人が千田先生の「黒歴史を暴露」する(実は若き日の千田洋幸の戦闘的な論文活動を紹介する)記事を書いていて、とても読み応えがあるのでおススメだネ。若年の千田先生の論文については(有島武郎或る女」論など)ボクもブログで1度ならずそのスゴサを紹介したことがるけど、若き日の千田洋幸は戦闘的な論文を発表し続けたので批判にもさらされたとのこと。その辺の事情を近くで見ていた人ならではの緊迫感で紹介してくれているので、メチャ面白い!

 

 さらに書評で参考になったのは、川上千里『今昔物語集攷 生成・構造と史的圏域』だネ、中根千絵という人が詳しく紹介してくれている。チサト(「さん」も「ちゃん」も付けると不自然で呼び捨てているけど、ダンナの多田蔵人もクロード呼ばわりだ)は学大でボクが担任したクラスの女子で、古典文学専攻(指導教員はベンゾー〈石井〉先生)なのに4年生になっても2年生の近代文学演習に参加していた知的好奇心が強くて賢い女子。学大を卒業後は東大大学院へ進学し、そこで荷風研究者のクロードに出会ったのだネ。ちなみに多田蔵人『永井荷風』(東大出版会)は、近年停滞気味の荷風研究を一気に活性化したスゴイ本なのでおススメ! クロードは1年前から立川の国文学研究資料館の教員として勤めているから、直接買えば2割引きになるヨ。

 チサトは子育てしながらも研究成果を1書にまとめ上げた能力とパワーの持ち主なので(もちろんクロードの支えがあったからこそ)、その結実しとして本書が刊行されたのは殊のほか嬉しかったネ。あいにく専門が違いすぎるのでハードルが高かったけど、中根さんの解説を読んだら俄然興味が湧いてきたヨ。本書の表題からして興味深いものだけど、テクストの冒頭表現に注目して論を展開しているとのことで、近代小説を論じる際にも役立ちそうだネ。

 《本書では冒頭表現に着目することで、編者が意識的に意図した改変と編者が無意識に話そのものに惹かれてしまい、意図した改変を逸脱してしまう生成のダイナミズムを捉えたことにある。》(中根さんの書評)

 贈られて未読のままのチサト本、にわかに読みたくなってきたヨ。「今昔物語」は高校時代に下ネタ中心にホンノ一部を拾い読みした程度だけどネ(鮭を女性器の「裂け」に重ねただけのダジャレ作品もあったナ)。

 

@ ナオさんの論が載ってメデタイ上にとても充実した『学芸国語国文学』第54号については、反面「黒歴史を暴露」しておかなければならないと思うけど、長くなったので次回に。