【見る】英雄たちの選択  鴎外の小倉左遷  平野啓一郎  ロバート・キャンベル

 磯田道史さんは歴史家としては素晴らしい見識を持っていると思うけど、文学については疑問符をつけざるとえないネ。次回はまさかの鴎外を取り上げるそうだけど、小倉左遷に焦点を当てた点では文学の問題を避けたのだろうけど、それでも鴎外について造詣(ぞうけい)が深いとも思えないので(ファンとしては)チョッと心配だネ。ゲストの1人はロバート・キャンベルで人は良いけど(ゲイであることを公表するなど)文学的センスがある人じゃないので、鴎外については毒にも薬にもならないことを言うだろネ。

 頼みの綱はもう1人のゲストである平野啓一郎で(いつもなら高橋源一郎)、平野なら切れ味の鋭さで薄くなりそうな番組を引き締めてくれそうだネ。高橋や島田雅彦は大学でも文学の授業をしているけれど、平野は作家としての活躍に集中しながらも、文学論では高橋や平野を超える見解で刺激してくれるものと期待している。高橋は番組前にそれなりの準備をするけど、島田はあまりそういうことはせずに思い付きでやり過ごすイメージが強いネ。平野は「100分で名著」で「金閣寺」を解説したことがあったけど、その時の印象でもよく勉強してテクストの読解も独自性を追求していたネ。

 鴎外の小倉左遷時代とは、軍医間の出世競争に負けた鴎外は小倉の連帯に左遷されて独居生活を強いられたことを指すのだネ。小倉に移る汽車を新橋で見送った数少ない友人が、乃木希典だったというのは有名な話。一時は軍医を辞める気にもなったのを思い止まったとも言われる屈辱の日々を、現代短編小説(ほとんどがツマラナイ)を書いて自らを慰めていたのだネ。ただこの小倉時代に後の名作が多い歴史小説の資料を集めたのだから、「転んでもタダでは起きない」精神を見倣うべきだヨ。

 番組を見る前にあれこれ想像を元に評価しても仕方ないから、鴎外論では傑出した2つの論を紹介・おススメしておこう。

 山崎正和『鴎外 闘う家長』(新調文庫)=鴎外の人間像をみごとに造型している。

 柄谷行人「歴史と自然」(『意味という病』所収、講談社文芸文庫?)=鴎外の歴史小説を説得力をもって分析・読解して素晴らしい!