木村陽子の公房論  原卓史の安吾論  山田夏樹の著書

それぞれ博士号の審査に関わったこの3冊が出そろった時に、宣伝も兼ねてブログに記そうと思いながらも、多忙にかまけてしまった。
今、木村さんの『安部公房とはだれか』(笠間書院、1700円)の書評を載せた『図書新聞』3127号が発売中なので、ぜひ読んでもらいたい(といっても大きな本屋でないと置いてないだろう)。
早稲田大学の博士号を取得した論文の一部とはいえ、ものすごく読みやすく書き直されているので、啓蒙が必要な人には特におススメ(安いし)!
既に2刷まで出回っているのだから、研究書としては例外的に売れているということ。
早大在学中の彼女の受難(書評にチョッと書いた)を知る者としては、喜びもひとしおというところ。

原さんは「ハラ坊」と呼んでいた昔からの知り合いで、こんなに若い学生が安吾の研究ライフワークとして志しているのか、という驚きは忘れない。
今や安吾研究では余人には及ばぬ守備範囲を築き上げ、その成果が『坂口安吾 歴史を探偵すること』(双文社出版、4600円)として公にされた。
重厚な研究ではあるものの、読みやすく分かりやすいので、安吾歴史小説と共に原さんの論を読むとより深く味わえるというもの。
安吾が知らずに書けなかったことを調べて教えてくれること少なからぬ、歴史に残る著書である。

山田夏樹『ロボットと<日本> 近現代文学、戦後マンガにおける人工的身体の表象分析』(立教大学出版会、4200円)がまた面白い!
長すぎる副題で内容は一目瞭然であろう。
私自身の守備範囲からは最も遠い内容なのだけれど、(あるいは遠いせいか)知らない事だらけを教えられる楽しさと興奮を味わえたものだ。
文学研究は既成の(評価が定着した)文学だけを対象にするものだとか、マンガなど研究に価しないという偏見に囚われている石頭学者どもにも一読を勧めたい。
各論の問題提起にも挑発されるし、分かりやすい叙述にも説得されるし、狭かった視野が大きく拡げられる思いをするだろう。
昔、NHKのBS番組に「マンガ夜話」とかいうのがあって、毎回とても興味深く見ていたのだが、「マンガというのは文学以上にブンガクしている!」という発見を繰り返したものだ。
あるいは夏目房之介を始めとする批評家がブンガクしていたと言った方が正確なのかもしれないが、とにかく刺激された番組で再放送を期待している。
山田さんの著書は、この番組の議論のレベルを大学院博士課程並みに上げたもので、誰しも知的興奮を与られること請け合い。
惜しむらくは入手しにくい定価となっているので、木村さんの著書のように博士論文をマンガと現代文学の二つに分けて出版すれば、安価でマンガ論も現代文学論も手軽に読めたのに・・・ザンネン!