宮沢賢治  梅光学院大学公開講座論集  佐藤泰正  北川透  原子朗

笠間書院から(定価1000円の割には充実している)継続して出している梅光大シリーズの第63集(!)である「宮沢賢治の切り拓いた世界は何か」を落掌した。
私に関係ある内容のものは欠かさず贈っていただいているのだけれど、今回も「梅光学院大学アドミッションセンター」が送り主となっていているので、どなたのご配慮なのかは不明なまま礼状の出しようがない(個人から贈られても、読んでからと思っているうちに機を逸してしまってばかりながら)。
昔は佐藤泰正先生からかな? と思わせるものがあったような気もするが未詳。
今度のテーマは賢治であまり読んでない領域ながら、上に列記したようにスゴイ方々が論を並べているので迫力がある(全体は7名)。
佐藤先生と原先生は共に賢治研究ではご著書をお持ちなのは知っていながら、賢治以外の業績にしか接したことがないので(原先生の『文体の軌跡』という名著については、学会の書評を書かせてもらったことがある)、これを入り口にさせてもらおうと「その気」になっている。
「その気」になれたのは、先般の学芸大学の恒例の学会で構大樹クンが賢治で発表するというので、聴くための予習として『ユリイカ』の賢治特集に収録されている北川透さんの「農民芸術論」の論を読み、とても啓蒙されたからである。
マエタカ(前橋高校)時代の国語の名物教師(斎藤孝弐先生)のお蔭で賢治を神聖化する心情から免れぬまま賢治から距離を取っていたものだが、在職中に卒論指導のためもあって吉本隆明の論を始めマエタカの先輩の栗原敦さんや見田宗介氏の賢治論を入手し始めていた。
北川さんは学生時代に中也論で感銘を与えてくれた人で、そのショックから院生の頃には知りもしない(3冊本の)透谷論まで購入したくらい敬意を払っている方だ。
上記の賢治論も期待以上に面白くて刺激されたが、詳しく触れている時間はないので一読をお勧めしておくにとどめたい。
今度の特集では「グスコーブドリの伝記」と3・11の震災を絡めて論じているようでソソラレている。
原先生はいつものように「リズム」の分析をしているようで楽しみであり、佐藤先生の論の表題は「宮沢賢治の生涯をつらぬく闘いは何であったか」というもので、精神の若々しさには圧倒されるばかりである。
先般、文学批評界ではもっとも真っ当な活動をしている山城むつみ氏との共著『文学は〈人間学〉だ。』(笠間書院、1200円)を世に問うた勢いは衰え知らずのようで、脳の老化が速度を増している己が情けなくなる。