丸尾実子の漱石注釈

山本芳明漱石論を紹介した翌日に、丸尾(坂東)実子ほかの『漱石文学全注釈7「三四郎」』(若草書房)を落掌した。
先日、笠間書院に笠間で出している本を購入するために訪れたばかりなのだけれど、同じビルにあった若草書房が跡形も無くなっていて淋しい思いをしたばかりだったので、本書を贈られた喜びは限りない。
廃業した有精堂の売り物だった資料叢書に取って代わろうとした若草書房の野心的な「青本」シリーズも、資金不足で頓挫したまま終ったので(他人事のように言っているが編集委員として後ろめたい)、漱石の注釈シリーズも頓挫したままかと思っていたので、オマル(丸尾は学大修士)の注釈書が本になるとは「望外の悦び」だ。
作品に出てくる競馬まで詳しく調べた「三四郎」論(翰林書房の『漱石研究』掲載だったか?)のみならず、漱石テクストを実証・注釈・読解する能力が傑出しているのは彼女の論考を読んでくれれば判るはずだけれど、本書は徹底して注釈を極めて圧倒される。
脚の引っ張り合いに余念のない(漱石)研究者の「悲しい性(さが)」の結果、注釈者が丸尾の他に藤井淑禎さん(交流が途絶える前には三浦海岸で一緒に釣竿を出した仲)と松下浩幸さん(学会ついでに道後温泉で一緒に湯に浸かった仲)が分担しているので、三者の注釈能力を比べるのも楽しみながら、丸尾が著名なお二人に引けを取らないのはチェックする前ながらも保証できる。
それほど学大時代から頭角を現していた才女であり、中島敦から漱石研究に切り換えて内田道雄先生の指導を得てから目を見張るほどの成長を見せ、成蹊大の博士課程に進学して石原千秋さんの許でさらに磨かれた優れ者である。
本書の難点はただ1つ、1万円という定価なので個人で贖うのはキツイので、図書館で読んでもらうしかない点だ(勤務校の図書館に具えて下さいヨ!)。
身近な仲間で興味のある人にはお貸しするので、遠慮なく連絡下さい。
全15巻の構成の漱石注釈なので、既刊の「それから」「彼岸過迄」「心」もヨロシクね!