昭和文学会補遺  『三浦哲郎事典』  加曾利達孝  小川淳

学会感想が長くなってしまったけれど、まだ記しておきたいことがあった。
会場の建物に入ろうとしたら双文社の小川さんにバッタリ出会ったので、休み時間に話すことができた。
双文社が社長の死を契機に廃業したとかで、小川さんがどうしてらっしゃるか気になっていたからだ。
小川さんには地道な安吾研究の原卓史さんの著書の出版で少々ご無理いただいた恩がある。
昔、笠間書院の社長が亡くなった後は、未亡人の池田さんが橋本さん達に支えながら無事会社を維持し続けているということを聞いていたけれど、双文社はそういうわけにはいかなかったとは聞いていた。
新しい出版社を立ち上げたのかと思って廊下に設定された本屋さんの「出店」に行ってみたら、何と加曾利さんの鼎書房の所におられたので不思議な感じ。
嘱託というほどでもないのかもしれないけれど、「お手伝い」しているという話だった。
ともあれお元気そうだったので取りあえずはホッとした。
加曾利さんとはお互い定時制高校教員時代からの友人である原善を介してのお付き合いなのだけれど、「ユタと不思議な仲間たち」等5編くらいの原稿を寄せたまま数年経った『三浦哲郎事典』の件をお尋ねした。
意外なことに加曾利さんは出す気十分なのだけれど、任せている編集の方が遅れて困っているとのこと。
とりもなおさず原善のことなので、早速事情を問い質したら遅れに遅れている執筆者に問題があるとのこと。
中でも親しいサッチャンが遅れていると聞いて、彼は忙しすぎるのに人がイイからすぐに引き受けてしまうから、ボクの名前を出して原稿を他の人に代ってもらうように伝えればイイと伝えた。
そうメールした直後にサッチャンから原稿が届いたというのだからヘンなタイミングだった。
そこまで「余計なこと」をしたのは出版人としての加曾利さんの姿勢(良心)に共感を覚えたことがあるからで、利益優先で阿漕(あこぎ)な勉誠社三好行雄師の遺稿集の価格を約束を無視して法外な値段を付けられたことがあり、その手の危惧を洩らしていた後輩の言う通りになった)から独立して加曾利さんが鼎書房を立ち上げたと聞いたことがある。
サッチャンの原稿も入ったというから、(事情を知らなかったボクは刊行を諦めていた)『三浦哲郎事典』が出版される日は遠くないだろう。
ご購入していただきセキヤイチロウという人が書いている項目を味わっていただけると、彼のレベルの高さに驚いていただけると思う。
彼は昔、桐原書店採録された「めちろ」という作品の指導書も書いたことがあるとのこと。
研究室や図書館にはぜひ備えていただいて学生のゼミ発表や卒論に役立てていただければ、感謝だけでなく尊敬します。