ひつじ書房  石川巧  柳瀬善治  いとうせいこう

ひつじ書房刊行の松本和也編『テクスト分析入門』については以前紹介しつつ、おススメした通りで学生諸君にはとても役立つ本。
比較的最近またひつじ書房出版の石川巧他編『〈ヤミ市〉文化論』(2800円)を石川巧氏と山田夏樹・渡部裕太両君の連名で贈っていただき、まずは石川さんのご論を読んで(未了)種々教えていただきながら礼状を書こうと考えているうちに、他事に追われたままになっていた。
ボクが立教大院で非常勤講師をしていた時にテーマにしたことのある原爆を取り上げた論文であり、「占領期のカストリ雑誌における原爆の表象」というとても興味深い論考なので感想はナッキー君とユウタ君の論についてと一緒に別の機会に。
ひつじ書房の広告チラシを見たら、同上の好著以外に『ハンドブック 日本近代文学研究の方法』(2600円)という学生・院生に絶対おススメの本も出ていて、目次を見れば一目瞭然実力ある研究者が網羅的に「研究法」について解説しているのでヤル気と実力のある学生は買うべし!
近代文学研究の紛れもないトップランナーの1人・中村三春氏の記念碑的著書で出版界にデビューしたひつじ書房が、これほど質量優れた本を続けて出すほどの出版社に成長するとは、嬉しい意外さで他人事(ひとごと)ならず喜んでいる(小沢書店の生まれ代りみたい?)。

チラシにはさらには5月刊行案内として『文学研究から現代日本の批評を考える』(3200円)が紹介されていて、こちらは巻末の柳瀬善治氏の論文の「三島由紀夫小林秀雄の〈亡霊〉に立ち向かうために」という副題が気になったものの、概ね本書の副題である「ポップカルチャーをめぐって」いる論考が並んでいるのでソソラレルものではなかった。
ところが2・3日ほど前に本書が柳瀬クン(実は僚友・樫原修氏の優秀過ぎる「教え子」で院生の頃からよく知っていた)と前記ナッキー君との連署で贈られてきて、驚き喜びすぐ読んだ。
柳瀬氏は聡明な上、実に幅広く深く読み込んでいてその成果は『三島由紀夫研究』(創言社)に結実しているのはご存じのとおり(かな?)。
長年台湾の大学で教えていたけれど、こんなに優秀な研究者を雇わない日本の大学の見識を疑い続けていたものの、やっと師の後を襲って広島大学に戻ったのでホッとしていたところ。
師の樫原氏の薫陶で小林秀雄についても詳しいので、上記の副題が付された論文「八〇年代以降の現代文学と批評を巡る若干の諸問題について」という長い(下手な?)表題の論考は、ムズカシイものの小林や三島についてはそれほど分かりにくいことを言っているわけではない。
しかし「八〇年代以降の現代文学と批評」についてはこちらが無知そのものなので、行論は理解できても具体例を知らないから納得できたという実感はないまま、柳瀬氏の守備範囲の広さと深さに圧倒されるばかり。
でも柳瀬氏の論を通して、いとうせいこうがホンモノの文学者だということが伝わってきたのは収穫だった。
テレビのタレント活動など見てると、そこまで分かっている人だとは思えないのに文学(のみならず)についての理解はとても深い(疑う人は一読をおススメ!)。
続けて日本におけるバフチン受容について論じた矢口貴大氏の論を一気に読んだのだけれど、我が夕食の時間になり腹が減ったのでいったん休止。