【読む】大橋毅彦『D.L.ブロッホ』

 春陽堂から2800円+税で出版された本だけど、副題が「亡命ユダヤ人美術家と戦争の時代」なのであのブロッホが絵も描いたのかと驚いたものの、「D・L・」が付いているとおりヘルマン・ブロッホとは別人だった。ヘルマンの小説はカフカがらみもあって文庫を持っているけど、未読のままなので早く読みたい思いがつのる。

 ともあれダーヴィト・ルートヴィヒ・ブロッホは美術家であり、上海に住んでいたこともあったので、大著『昭和文学の上海体験』(勉誠出版)をはじめ上海がらみの本を数冊出している大橋さんが研究することとなったとのこと。「亡命ユダヤ人」とあるとおりナチの迫害を受けて上海に移住したそうだけど、口絵20などはシベリア体験者である香月泰男(大好き!)の作品を想起させてイイね。その他、収容所や中国の風俗などを描いたものもイイと思うけど、代表作(?)らしい2つの「絵による私の履歴」はゴチャゴチャしていて好きになれないネ。

 口絵が20枚以上あって楽しめるけど、副題が示すとおりの内容の本を読む人がたくさんいて欲しいものの、今どきの読者にどれだけ期待できるだろうか? でも図書館にはかならず備えて欲しいものだ。