【読む】『昭和文学研究』第83集  松本和也さんの高見順論  「いやな感じ」

 既に紹介した研究誌だけど、内容は『シドクⅡ』の書評だけに触れたままだった。中村三春・斎藤理生・松本和也押野武志(前回は斎藤さんを記し忘れたネ、今まで何度か推薦した人なのに目次が混雑しているせいだヨ)というハイレベルのラインアップだけど、吉田理恵さんの小熊秀雄論を読んでからは、松本さんの論を読んだだけだった。中村さんの論も勉強になるのだけれど、太宰論だったので今のボクは惹かれなかった(と言いながら、先日古書店「七七舎」で昔の『文学』(2010、7・8)に中村さんの太宰「おさん」論が載っていたのでゲットし、帰りの電車で読み始めたら止まらないままだヨ)。斎藤さんの論も太宰だったので敬遠したものの、テーマが「饒舌体の変容」だから惹かれるネ。

 実際に読んだのは松本さんの論で、大好きな高見順論だったからだ。「ノーカナのこと」という名前だけは知っている作品についての論だけど、例によって順独特の良心的自意識の揺れを松本さんらしく料理した論だったと思う。ともあれ初期から昭和10年頃までの順しか読んでなかったので、戦争期の順を読む機会を与えてもらったという意味でも感謝だネ。戦後の順作品も読んでないけど、傑作中の傑作「いやな感じ」は絶対おススメだネ。良心的自意識からふっ切れると、スゴイ傑作を生み出す作家だヨ。