【読む】石川巧さんの近著(2)  藤井淑禎さんと石崎等さん

 日本文学研究が小説に傾き過ぎて、詩歌や演劇の分野が薄いという欠陥については何度か記してきたので、まさかの石川さんが戯曲論を出版したのでビックリしてるヨ。後書き読んだらその経緯が書かれていたので納得したネ。石川さんは成蹊大の院生の頃に林廣親さんの授業で久保田万太郎と出会い、林さんから演劇研究にも業績を残した越智治雄の存在を知って主著『明治大正の劇文学 日本近代戯曲史への試み』を入手したとのこと。(イイ話だナ~!)石川巧の存在は川端論を通して早くから知っていたけど、林さんから石川さんのことを聞いたことがないので、今回の万太郎論はいきなりの印象で驚いたのだネ。石川さんが記す「林廣親先生」という言い方には違和感があるけど(やっぱり「ハヤシ!」だヨ)、石川さんという優れ者を戯曲研究に導いたのはエライね、改めてハヤシを評価するネ。

 石川さんは立教大学の博士後期課程で指導教員の藤井淑禎さんに万太郎論執筆の希望を告げたら許可されたと記しているけど、藤井さんも漱石論では越智先生の指導を仰いでいたという縁があるのだネ。たぶんそれまで川端研究で博士論文を書くものと思っていた石川さんが、万太郎論に切り換えても許したのは越智先生の縁だと感じたネ。副査の石崎等さんが石川さんに「おまえのために久保田万太郎全集を買って読んだよ」と告げたというエピソードは、石崎さんの為人(ひととなり)がよく伝わってきて微笑ましいネ。

 藤井さんとは駒場の越智研究室以来の付き合いだったけど、むかし論争相手の石原千秋さんを支持してからは年賀状が来なくなっている。横須賀の藤井さん宅から近い海釣り公演で一緒に釣ったり、獲物を藤井宅で奥様が料理してくれたのを味あわせていただいたこともあったのだけどナ。藤井さんのお蔭で学芸大に赴任してすぐに立教大でも非常勤講師として通わせてもらったので、石崎さんとも仲良くさせてもらっている。お互い定年退職した後だったと思うけど、学大が学会の会場になった際の終了後に教室を出ようとしたら石崎さんとハチ合わせしたのだネ。そのとたん思わずお互いハグし合っていたヨ。すぐ傍で見ていたムック(椋棒)君がビックリしてたけど、石崎さんとは自然とそうしても不思議ないような仲なンだネ、もちろんお互いホモっ気は無いヨ。

 

 本書はレーゼ・ドラマ(読む戯曲)が表題のとおりテーマだけど、石川さんが最初にこのテーマで学会発表した時には直後に井上ひさしの講演があり、上演しない戯曲などありえないとレーゼ・ドラマを否定したのでその後は石川さんは悩んだと記しているけど(その時の会場にボクもいた気がする)、井上の方が根本的に間違っているのに何も悩むことないのにと思うがナ。後書きにある「私は文学の力などというものを信じている人間ではない」とアッサリ明言してしまうところともども、石川さんという人がイマイチ理解できない点だネ。

 実はこの数年、あまり読まれていないし研究もされてない万太郎を読もうとしていた(戯曲じゃなくて小説だけど)ところだったので、石川さんの万太郎論はそれだけショックだったわけだけど、本書を拝読しながら万太郎や久しぶりに戯曲・演劇について考えてみたいネ。それにしても石川さんは戯曲論までものするほど守備範囲が広くて驚かされるばかりだけど(どれもレベルが高い!)、つい最近ドストエフスキー小林秀雄とをバフチンを媒介に論じた博士論文を落掌して読み始めたところなので、読むのが遅いボクとしては嬉しい悲鳴を上げているヨ。