【見る】「映像の世紀」の「戦争と芸術家」  世紀の指揮者・フルトベングラーとナチス  ワーグナー  バレンボイム(とサイード)

 今夜の「映像の世紀バタフライエフェクトは「戦争と芸術家」というテーマで、とても面白く感動的でさえあった。主に20世紀の代表的な指揮者の1人・フルトベングラーナチスとの関係を追ったもので、他にショスタコービチとソ連指導部との関連や火野葦平林芙美子など日本の作家たちも取り上げられているので、再放送が期待できないのならオンデマンドとかいうので見ることをおススメするネ。「感動的」とまで言うのは「バタフライエフェクト」編なので、現在の状況と関連付けられているためでもあるネ。例えばロシアの有名指揮者であるゲルギエフが(映像ではプーチンとは30年来の友人関係だという)、ロシアのウクライナ侵略以降は世界の楽団から拒絶されていることが映像でも見せている。

 フルトベングラーナチスへの妥協やショスタコービチのスターリン指導部との隠微な闘いについては以前も1度ならず記したことがあるのでくり返さない(のでブログを検索して読んで欲しいネ)。この番組では歴史的な演奏と言われるベートーベンの交響曲「合唱付き」の指揮ぶりが映像で見ることができるし、演奏後にナチの宣伝相・ゲッペルスに握手を求められたフルトベングラーが(渋々?)手を差し伸べた場面も確認できる。ショスタコービチの闘いぶりが、指導部に妥協したと言われる交響曲第5番(通称「革命」)のラストの4音には「カルメン」の「気をつけろ」のフレーズのメロディが秘められているという指摘にはビックリしつつ感心したネ。

 以下にそれぞれの芸術家が「戦争と芸術家」について残した言葉を、番組から紹介する。

 

* フルトベングラー

 《何らかの地位についているドイツ人は、最後までその地位にとどまる意思があるかという問いの前にたたずんでいる。答えがイエスなら、実際上現在の支配政党に妥協していかねばならない。》

 《ユダヤ人追放政策が優秀な芸術家に向けられるならば、それは文化活動の損失です。ユダヤ人芸術家たちが将来もドイツで活動していくことが許されるべきです。》

 《(20世紀を代表するもう1人の大指揮者・トスカニーニの批判に対して)では芸術は、たまたま政権を握った政府のための宣伝にすぎないというのですか。絶対に違います。芸術は政治とは別の世界に存在するのです。》

 

* ショスタコービチ 

 《ファシズムは単にナチズムを意味するのではありません。この音楽(交響曲第7番「レニングラード」)は恐怖・屈辱・魂の束縛を語っているのです。交響曲第7番はナチズムだけでなく、今のソビエトの体制を含むファシズムを描いたのです。》

 [イチロー付記]ナチスと闘って勝利したソビエトを記念して、ロシアでも対独戦争勝利記念日に壮大な軍事パレードが続いているけど、プーチンウクライナナチスに支配されているという口実で侵略しているものの、ロシア=プーチン自体がソ連時代の「ファシズム」を根強くなぞっているのはショスタコービチの指摘のとおりだ。以前プーチンのツラにチョビ髭を描けばそのままヒットラーになると記したけど、ショスタコービチの言葉もそれを裏付けてくれているネ。

 

* 火野葦平

 《祖国の危急の前に、まずしい私の力のありたけを捧げねばならぬと信じました。この私の愛国の情熱が誤謬であるといわれれば、もはや何も申すことはないのであります。》

 [イチロー付記]中国戦線についで(日本軍最悪・最低の作戦と言える)インパール作戦における兵隊たちの惨状を見た葦平は、「腹の中は悲しみと怒りとで煮えくりかえった。路上の凄惨な状態に涙が止まらない。」と日記に書いたものの、公表することはできなかった。戦後戦争責任を問われて執筆禁止の期間を経て後、葦平は己をモデルに元従軍作家を主人公にした苦悩を「革命前後」に描き、昭和40年ごろに自殺した。

 

@ バレンボイムのことをはじめまだ書きたいことがあるけど長くなっているので、続きは改めて。