【読む】『論樹』最新号  谷崎・露伴・光太郎・倉橋論など  倉橋由美子「暗い旅」

 都立大学の教員や大学院修了生・現役生によるハイレベルの研究誌『論樹』第32号を送っていただいた。教員の大杉重男さんが谷崎の「吉野葛」論(天皇制がらみ)を掲載しているのをはじめ、優れた書き手が正道の文学論を載せている。まったく未知の世界である児童文学の「海のメダカ」という作品の「読解」をめぐる論文もある。

 個人的には何よりも倉橋由美子「暗い旅」論に惹かれるけど、論はサルトルの影響を探っているようなのでそこには興味はない。ラジオ放送大学の「文学批評への招待」で「二人称小説」の例としていくつかの作品が紹介された中に「暗い旅」があったので、読んでみたいと思いながら入手できずにいた(ビュトール「心変わり」はすぐ買えて読んでいる)。そもそも「二人称小説」という概念自体があまりピンとこないのは、語り手は自称しないものの「あなた」と語った時に(一人称は現れないけれど)語り手は既に顕現しているからネ。何故「二人称小説」なるジャンルが発表されたのか、その必然性も含めて気になるのだネ。サルトルの影響があるのかな? 読んでみたい論だ。